クリーンテック戦略月次レター:農業関連技術のニーズ高まる
クリーンテック戦略月次レター(2022年8月の振り返り)
農業関連技術のニーズ高まる
「持続可能な食糧供給」分野では、イノベーションによって収穫量を改善し、農業の効率化を進める
8月のグローバル株式市場は、中央銀行が景気を犠牲にしてでもインフレを抑制するという強い姿勢を示したことから下落しました。地域別では、英国と欧州が、米国とアジアに比べて下落幅が大きくなりました。セクター別では、情報技術とヘルスケアが、エネルギー価格高騰に支えられたエネルギーおよび公益に比べて下落幅が大きくなりました。
クリーンテック戦略ポートフォリオの2022年8月のパフォーマンスは、世界株式(MSCI ACWI、米ドルベース)をやや上回りました。当月は、主として欧州の保有銘柄の株価下落がマイナス寄与となりましたが、北米の保有銘柄の株価上昇がプラス寄与となりました。「低炭素輸送」および「スマートエネルギー」関連分野の保有銘柄が、パフォーマンスをけん引しました。
クリーンテック関連企業、良好な業績を継続
2021年通期および10~12月期の決算発表が本格化しており、これまでのところクリーンテック関連企業は、受注拡大や堅調な需要見通しを示し、良好な業績を継続しています。サプライチェーンの混乱やコスト上昇が多くの分野で依然として問題となっていますが、強力な競争力がある企業は、コスト上昇をうまく価格転嫁し、ビジネスモデルの強靭性を発揮しています。一方、価格競争力があっても受注が売上に反映されるまでに長く時間を要する企業は、すぐに製品価格を見直すことができず、短期的には利益率が圧迫されます。少なくとも今年前半は、サプライチェーンやコスト・インフレ問題が続くと思われることから、当戦略では、巧みに価格転嫁を行い、混乱を乗り切る能力を備えた企業に注力して運用を行っています。
当戦略で注目している「持続可能な食糧供給」分野においては、穀物価格や投入コストの上昇を背景に「アグリテック(農業とテクノロジーの融合)」のニーズが高まっています。アグリテック・ソリューションによって収穫量を改善し農業の効率化を進めることが可能となります。食料関連の投資機会に関しては、当戦略ポートフォリオチームの投資スペシャリスト、トゥー・クイン・リーが記事(「地球を守りつつ、世界的に食料を確保することが成長機会に」)を執筆していますので、ご覧ください。畜産関連、肥料の生産と使用、食品廃棄物に関するソリューションを解説しています。
マクロ経済への懸念にもかかわらず、エネルギー移行の動き続く
なお、ロシアからの天然ガス供給減に猛暑の影響が加わって天然ガス価格は急騰しました。ロシアの国営企業ガスプロムは8月末、パイプライン「ノルドストリーム1」を通じた欧州へ天然ガス供給を再び停止したため、欧州は引き続き厳しい局面に対応する必要があります。欧州では液化天然ガスの購入と夏場の経済活動鈍化によって天然ガス貯蔵率は改善しましたが、冬場の暖房需要には不十分とみられます。一方、欧州の複数の国においては、エネルギー企業などに対する超過利潤税や特別支援策などを通じてエネルギー価格高騰から消費者を守る動きがみられました。
こうした全般的なマクロ経済の懸念にも関わらず、エネルギー移行に向けた推進力は引き続き高まっています。ウクライナ紛争によって浮かび上がったエネルギー自立問題は、世界各国にとって最重要課題となっています。8月末には、欧州バルト海に面する欧州連合(EU)8カ国の首脳会議が開かれ、ロシアへのエネルギー依存脱却に向け、バルト海の洋上風力発電能力を2030年までに現在の2.8ギガワット(GW)から7倍に増やすことで合意しました。また、ドイツは、ロシアからの天然ガス供給が不安定になっているため、原子力発電所の稼働完了時期を遅らせる決定をこのほど行いましたが、現在、消費電力の約半分を占める再生可能エネルギーを2030年までに8割に拡大する計画には変わりありません。
米国では、最近成立した「インフレ抑制法」はエネルギー移行関連企業にとって大きな追い風となり、米国の気候変動目標の達成をより確実なものへと導くとみられます。同法では、向こう10年にわたって約4,000億ドルの財政支出がエネルギー安全保障と気候変動対策に充てられます。
中国で長引く新型コロナウイルス感染拡大防止のためのロックダウンは、現地での生産活動にも影響を及ぼし、世界的なサプライチェーンの混乱も続いています。ここ数カ月は制限緩和の方向にあるものの、中国は今もゼロコロナ政策を維持しているため、運用チームでは、低炭素輸送分野などの産業やインフレ圧力に影響を及ぼす可能性について引き続き状況を注視しています。
米カリフォルニア州、2035年にガソリン車の販売禁止を決定、EVシフト加速へ
8月には電気自動車(EV)関連で進展がありました。米カリフォルニア州は8月末、2035年以降に州内でのガソリン車やハイブリッド車などの新車販売を全面的に禁止する規制案の決定を発表しました。同州は、自動車各社に対して、EVの販売比率を段階的に高めていくこと義務付けます。また、前述したインフレ抑制法の目玉の一つが電気自動車(EV)購入に対する税額控除で、最大7,500ドル(約107万円)で北米生産EVが対象になります。こういった米国での急速なEVシフトを受け、ホンダは8月末、韓国電池大手のLGエネルギーソリューションと共同で米国にEV向け電池工場の新設を発表しました。投資額は44億ドル(約6,300億円)で、2025年の量産開始を目指します。
世界中で記録的な干ばつ・洪水頻発、気候変動対策の緊急性高まる
なお、8月は世界中で記録的な干ばつ、洪水が頻発し、気候変動対策の緊急性が高まっています。欧州では過去500年で最悪とされる干ばつに襲われ、川の水位低下で輸送能力が大きく落ちています。中国でも一部地域では歴史的な干ばつに見舞われており、水力発電の稼働低下に伴う電力制限や工場の稼働中止に迫られました。米国でも記録的な干ばつと猛暑が続き、山火事などの被害が大きくなっています。一方、パキスタンでは豪雨による洪水で国土の3分の1が冠水し、1,000人以上の死者が出ています。
ポートフォリオの動向
低炭素輸送関連分野では、自動車向け半導体企業のウルフスピードが予想を上回る決算発表を行い、長期売上目標を大幅に引き上げたことが好感され株価が上昇し、プラス寄与となりました。同社は自動車・産業向け、無線周波設備など高出力アプリケーションに用いられる半導体素材やデバイスを開発・製造しています。またシリコン・カーバイド製造におけるリーダー企業で、EVバッテリーの電力変換や充電設備を効率化させるため同社製品には強い需要があります。同社は直近四半期で24億ドルの新規事業を獲得し、うち約70%は自動車向けで、パイプラインは全体で350億ドルを超えています。
スマートエネルギー関連分野では、公益事業向け太陽光発電システムの大手サプライヤーであるファーストソーラーが堅調なパフォーマンスとなりました。米国のインフレ抑制法成立は再生可能エネルギー機器メーカーにとって大きな追い風となっており、特に米国で事業展開している企業には有利です。ファーストソーラーは当月、発電容量を4.4GW追加するための新規投資計画を明らかにし、これによって同社の米国での発電容量は10GW超となります。同社の技術はアジアの同業他社より競争力があり、受注残は2年半分にも及びます。
一方、持続可能な食糧供給関連分野では、オランダのDSMが、素材価格、エネルギー価格、物流コストなどの上昇に加え、中国のロックダウンによる供給網の混乱などが収益の圧迫要因となりマイナス寄与となりました。同社は素材事業を売却し、成長性の高い健康、ニュートリション(栄養)、バイオサイエンス事業に特化することで企業価値を高めようとしています。
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