
まだ十分に織り込んではないのか?
- 2025年4月7日 (5 分で読めます)
ここ数日の株式市場の急落により、数兆ドルの家計資産が失われたと思われます。消費者や企業の景気への信頼感が崩れる中、好ましくない悪循環が発生する危険があると見ています。機会あるごとに悪い経済理論を叫ぶことでは、この状況を止めることはできないと見ています。投資家は自らの資産を守る必要があると思います。つまり、よりディフェンシブ(景気動向に左右されにくい)な相対的に安全性の高い資産クラスは、株式市場よりも引き続き良好なパフォーマンスを示すと見ています。社債などのクレジット市場は、金利の低下に助けられて、株式市場よりも安定したパフォーマンスとなっています。しかし、1~3月期の決算発表シーズンが近づくにつれ、米国企業の業績見通しに関して相対的に良くないメッセージが出される可能性がリスクとしてあると見ています。株式市場は相対的に割高で、クレジットスプレッド(信用力の差に基づく利回りの差)は相対的に縮小しています。景況感の悪化に対する市場の調整プロセスは、さらに進む必要があると見ています。
価格と量
関税が物価(インフレ)に関するものであるにもかかわらず、市場は量(成長)に焦点を当てています。いわゆる「解放の日」により、弱気派が市場に広がりました。つまり、世界の主要な株式市場は下落幅を拡大しており、債券利回りが下落し、米ドルは他の主要通貨に対して下落しています。市場では、トランプ大統領の関税が米国のリセッション(景気後退)のリスクを大幅に高めたという考えが強くなっています。過去数週間で、米国の統計では、消費者と企業の信頼感が悪化しつつあることを示しています。市場では、明示的に米国のリセッションを予測する人が増えてきました。もしリセッションに陥れば、企業の利益率が急落し、純利益が減少し、株式市場のPER(株価収益率)が縮小することが予想されます。米連邦準備制度理事会(FRB)は、歴史的にリセッション期に積極的に金利を引き下げてきました。それはおそらく今後の道筋であり、その結果、ポートフォリオの配分を変更する必要性が高まることになると見ています。
市場はこれまでのところ過去と比べてもかなり大きく変動しています。MSCIワールド株式指数は4月4日に、2月中旬のピークから14.7%下落しています。米国の株式市場はさらに大きく下落しています。S&P 500指数及びナスダック総合指数はともに4月4日一日で約6%下落しました。市場は、FRBが今年4回利下げすることを織り込んでいます。1980年以来、米国債市場は1982年、1992年、2001年、2008-2009年において、2四半期以上の期間で米国株式を上回るリターンを上げました。これらの期間はすべてリセッション期でした。もし米国経済がリセッションに向かっているのであれば、2025年1~3月期のみならず、米国債が米国株式を上回るリターンを上げることになる可能性が高いと見ています。そして、そうなれば、このパターンは他地域の市場でも見られるかもしれません。
スタグフレーション(リセッションとインフレが同時に進行する経済状況)
私(筆者)が受けた初めての経済学の授業では、供給と需要のグラフが紹介されました。そのグラフは、他の条件が同じであれば、何かの価格が上昇すると、それに対する需要は減少することを示していました。需要がどの程度変化するかは、その商品やサービスの「需要の弾力性」に依存すると考えられています。例えば、パンや石油、マッチの箱のような必需品や低価格の商品であれば、需要はあまり減少しないと見られています。必需品でない場合や、信頼できる代替品がある場合、需要は相対的に大幅に減少するかもしれません。米国の企業や消費者が関税によって引き起こされる避けられない価格とコストの上昇にどのように反応するかは、その商品の特性や現実的な米国製の代替品の有無に依存します。反応は複雑ですが、関税がかかるすべてのものについて類似する代替品があるとは限らないでしょう。従って、価格が上がり、量が減少すると考えられます。これは、米国における実質消費の減少と、世界の他の地域からの輸出の減少として現れるでしょう。そして、基本関税は、輸入コスト全体を引き上げますが、これには、特に主として米国製品の販売コストに影響を与える部品や中間財が含まれています。こうして、価格水準を全般的に上昇させ、価格が上がり、量が減少します。私はこの用語が好きではありませんが、多くの人がスタグフレーションと呼ぶような状況につながっていく可能性があると見ています。
悪循環
アジアや欧州に拠点を置く輸出業者にとって、関税は(米国の顧客が直面する価格上昇のため)需要の減少を意味し、関税を相殺するために販売価格を引き下げることを選択した場合、収益も減少します。米国からの売上や収益が減少しても、他国経済に対して製品をダンピング(不当に安い価格で販売すること)しても、関税の影響を受けているため、その損失を補うことは難しいでしょう。世界的に見て、貿易戦争は、最終的には需要曲線を左に移動させる、つまり、量が減少し価格も下がることを意味すると考えられます。言い換えれば、保護主義の影響が完全に表れてくると、物価上昇が急激に治まり下落に向かうと考えられます。そして、ドルが弱まっているという事実は、状況をさらに悪化させる可能性があると見ています。
株式市場にとって相対的に厳しい状況
今年初、IBES(機関投資家向けに提供されるアナリストの予測値を集計した証券情報サービス)のS&P 500指数における2025年の総合1株当たり利益(EPS)成長に対する市場予想は14%増益で、2025年のEPSの予想値は270ドルでした。しかし、現在その成長率は12.2%に引き下げられ、予想値は266ドルになりました。予想の方向性は下向きになっていると見ています。世界の貿易システムが覆され、価格と量の動きは企業収益の減少を示しており、過去数年間に利益成長を牽引してきたテクノロジーセクターでは、生成AI(人工知能)の初期の開発者たちが得ていた利益は競争の激化により減少しています。成長ストーリーは再び浮上するかもしれませんが、政策が自由市場に対して厳しい影響を及ぼしている時には、浮上は難しいと見ています。
株式市場のリスクプレミアム(リスクに対して支払われる対価)を推定するのは難しいですが、一般的には米国市場では最近はかなり低下していると見られています。株式リスクプレミアムの代替として株式の益利回りと米10年国債利回りの差を見ると、今世紀の平均3.3%と比較すると、過去1年間では1%未満に縮小しています。リスクプレミアムが拡大し、収益が低下してくると、株価が下がると考えられます。それに対し、債券利回りの低下することは助けになるかもしれません。そして実際にそうなるべきと考えていますが、リスクプレミアムの拡大と収益の低下を相殺するのに十分なほど利回りが低下するためには、現在の市場が織り込んでいる100ベーシスポイント(bp)の利下げ以上にFRBが緩和を進めることを確認する必要があると見ています。もちろん、それが実現し、市場がすでに低成長見通しを織り込んでいる状態になった場合には、株式市場は再び「買い」になると見ています。しかし、ここで考慮すべきは、世界の投資家がまだ米国株式にオーバーウェイトしている可能性があるということです。リスクをわかりやすく見るために例を示すと、もし株式リスクプレミアムが3%に上昇し、債券利回りが3.5%に低下し、12ヶ月先企業利益予想がさらに10%下がった場合、S&P 500指数を試算すると、4月3日の終値から約30%下落する計算です。それは相対的に非常に大きな数字に見られます。この場合、市場は2022年3月にFRBが引き締めサイクルを始めた当時の安値に戻ることになります。
米国(US)対私たち(us)
世界的なリセッションと株式市場の弱気相場を考えるのは私にとって楽しいことではありません。私は年金受給年齢に近づいていますが、年金が減少することは望ましいことではありません。しかし、米国の政権が世界の他の国々に対して共感を持たず、米国人にとって良いと思われることを得るために強硬な手段や信じがたい戦術を使う準備を進めているときに、より幸せな結果を導き出すことはできないと思います。世界の他の国々が米国から離れて世界を再編成しようとする動機を感じるかもしれませんが、それは簡単ではないと見ています。実際に、英国政府はブレグジットの逆転について話すことすらありませんし、もっと広く見れば、中国に対する疑念があります。したがって、現在の状況に対する各国の反応は、内向きで愛国主義的になる可能性が高いと見ています。その場合に危険なのは、いたるところで保護主義が強まっていくことです。トランプ大統領は他国に対して、同氏の政策に「素晴らしい」提案で応じることを望んでいます。他国がそうするかどうかはまだわかりませんが、米国が他国とは違うという野心は、取り返しのつかない状況になりつつあります。世界のどこでも金融および財政の緩和が進む可能性が高まっていると見ています。欧州は支出の刺激策を加速するために創造性を高めならなければならないかもしれません。もしそうなれば、欧州株式市場の魅力は相対的に高まっていくと見ています。
債券強気派
市場環境が悪化していく中で、債券利回りが米国と英国では4%を、欧州では2%をそれぞれ下回る可能性があると見ています。実際に、米国の4月4日の朝には米10年国債利回りが4%を下回りました。各中央銀行は、リセッションやデフレが実質的なリスクとなった場合に対処するための多くの手段を持っています。ある時点で、投資家は長期的なインフレに対する最良の保護手段について考えることが賢明だと見ています(株式市場やハイイールド債券市場は、ある時点でその為の主要な資産クラスとなりますが、それはまだ先のことと見ています)。世界的な景気後退への対抗処置によるもう一つのコストは、政府の借入が増加することと時間の経過とともに利回り曲線のスティープ化する(急勾配になる)ことです。キャッシュに対して相対的に明確なプレミアムを提供する、相対的に短期(またはゼロ)デュレーションの質の高いキャッシュフローに基づく資産が、長期的な価値下落リスクを抱える資産クラスよりも相対的に選好されると見ています。相対的にデュレーションの短いインフレ連動債券は相対的に良好と見ています。
自己被害
関税に関する初期の見解では、米国の実効税率は20%~25%の水準に上昇し、1920年代以降で最も高くなるとされています(トランプ流の見方ではありませんが、経済学の主流派は1930年のスムート・ホーリー関税法が大恐慌を悪化させたと主張しています)。消費者は関税のコストの多くを負担することになり、それが消費者の所得と支出に影響を与えると見ています。世界の主要な株式市場は、株価が下落して重大な懸念があることを示しており、一般消費財セクターは4月3日と4日に下落しました。
米国と他の国々との交渉の結果、何らかの救済が得られるかもしれません。これは、米国からの輸出に対する通貨やその他の非関税障壁に関する譲歩を意味すると見ています。しかし、トランプ関税に対する反応として、米国製品への需要は深刻なまでに損なわれる可能性があると見ています。トランプ大統領の被害者かのような劇的な発言にもかかわらず、市場での比較的妥当な主張として、米国は他の国が買いたいと思うものを作っていないか、相対的に安価に製造することができないか、十分な品質で製造できていないかということがあります。さらに、米国人が過剰に消費し、貯蓄が不足していることは貿易赤字を説明することに大いに役立つと考えます。リセッションを引き起こしても、この状況は変わらず、米国の消費者は貧困して、輸入への需要を減らすことになると見ています。また、関税政策によって、ロボットが自動車を作る際に安価で優れているという事実を変えることもないと見ています。関税政策の結果として、ミシガン州やルイジアナ州で新たに訓練された組立ライン労働者が大量に現れるとは考えにくいと見ています。そして、自動車メーカーが工場をメキシコから米国に移転しても、販売が増える保証はないと見ています。混乱した状況になっていると見ています。
パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ICEデータサービス、ブルームバーグ、アクサIMグループ。特に記載がない限り、2025年4月3日現在。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。また、記載内容は、特定の金融商品への勧誘や推奨を意図したものではありません。
(オリジナル記事は4月4日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
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ナスダック総合指数:米国NASDAQに上場している全銘柄の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。
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