決算発表電話会議に見るジェンダー・ダイバーシティ
女性は男性よりもよく話すという通説は、決算発表電話会議では全く違います。
また、米国で本稿を読まれている方がジェニファーかローラというお名前の企業幹部であるなら、ここ10年間の米国企業の女性取締役増加に貢献されたかもしれません。
当社は、株式の銘柄選定プロセス向け自然言語処理モデルを開発し、そこからさまざまな知見を得ています。企業の四半期決算発表に関する電話会議の議事録は当社にとって重要な情報源の1つですが、今回これをダイバーシティ(多様性)の観点から分析したところ、驚くべき発見の数々が得られました。
ジェンダーバランス改善への遅々とした歩み
決算発表電話会議で投資家への説明を行うのは通常、最高経営責任者(CEO)と最高財務責任者(CFO)です。当社は自然言語処理モデルを用いて、こうした場におけるジェンダーバランスを分析しました。その結果、企業はこの点において進歩を遂げつつあるものの、その歩みは遅いことが分かりました。
関連サイト「ジェンダー・ダイバーシティ:企業が約束を果たすためには(英語)」
米国企業の決算発表電話会議において、CEO(または同等の役職者)としての発言者に占める女性の割合は、2004年の約3.5%から2018年には5.5%まで上昇しました。ただし、上昇に転じたのは2010年のことです(図表1参照)。女性CFOの比率は、リーマンショック 時の下落を挟んで約10%から13%へと増加しています。インベスターリレーションズ(IR)担当役員を見ると、女性発言者の割合ははるかに高くなりますが、数値そのものは約38%から34%未満へと低下しています。
こうしたバイアスや傾向は、大型株企業でも小型株企業でも、米国企業でも海外企業でもほぼ同じです(図表1参照)。なお、決算発表電話会議の発言者におけるジェンダーバランスは、CEOやCFOレベルでは、米国のほぼ全てのセクターで改善しています(図表2参照)。こうした数値を見ると、上場企業が経営陣の女性比率向上を実現していることがよく分かります。なお、情報技術セクターの女性従業員の比率が他業界よりも低いと喧伝されていますが、幹部層を対象とした今回の分析ではそうした傾向は見受けられませんでした。
一方、決算発表電話会議で質問する側の投資アナリストを見てみると、全く異なる傾向が浮かび上がります。投資アナリストにおける女性の発言者比率は、米国大型株企業では12%から11%へと減少しており(図表1参照)、複数セクターにおける大幅な下落が、ヘルスケアをはじめとするそれ以外のセクターでの増加を打ち消す格好となっています(図表2参照)。
図表1:米国の決算発表電話会議における女性発言者の比率
――進展の遅さと役職ごとの傾向
図表2:世界産業分類基準(GICS)セクター別の女性発言率
――ほぼ全セクターで改善
出典:ローゼンバーグ株式(アクサ・インベストメント・マネージャーズ)、ファクトセット、米国国勢調査局。
図表は、決算発表電話会議における各GICS分類企業の発言者全体に占める女性発言者総数推計の割合を示しています。「CEO」は最高経営責任者かそれと同等の役職者、「CFO」は最高財務責任者、「IR」はインベスターリレーションズ担当役員、「その他幹部」は上記以外の企業幹部、「アナリスト」は投資アナリストとしての発言者をそれぞれ指します。両図表とも、記載の時期においてローゼンバーグ株式がカバーしていた証券を対象としています。
関連サイト「定着するダイバーシティ:義務からメリットへ(英語)」
男性の発言が長い理由
決算発表電話会議の発言の長さを分析すると、男性は同じ地位にある女性よりも発言が長いという傾向が共通して見て取れます(2018年のデータ、図表3参照)。興味深いのは、この傾向がさまざまな地位において共通して見られることです。CEOでもCFOでも、また、投資アナリストの質問でも共通していますし、企業分類についても、米国でも海外でも、大型株でも小型株でも同じです。
これは、女性発言者がより慎重に話すためかもしれませんし、短く説明するためかもしれません。ほかにも、この男女の発言の違いを説明する理由は多々考えられます。さらに深掘りする価値のある事象といえるでしょう。
図表3:発言者の平均発言単語数(2018年)
出典:ローゼンバーグ株式(アクサ・インベストメント・マネージャーズ)、ファクトセット。2019年5月24日現在。
図表はローゼンバーグ株式がカバーする米国上場証券(含むADR(米国預託証券))を対象としています。「その他幹部」はCEO、CFO、IR以外の企業幹部を指します。発言の長さは各決算発表電話会議での各人の全発言における単語数の概算値で示しており、決算発表電話会議を開いた米国および海外の大型株企業および小型株企業に分けています。
名前から得られる知見
ダイバーシティにはジェンダーだけでなく、他にも多くの視点が存在します。米国企業の決算発表電話会議における発言者の名前からも、社会のダイバーシティについて興味深い知見が得られました。
当社は、米国企業の決算発表電話会議の発言では、米国の人口全体で見られるよりも、名前の共通性が高いことを見いだしました。例えば女性の場合、ジェニファー、ローラ、リン、キンバリー、デボラ、ケリーという名前の発言者の数が増えています。
名前のばらつきが相対的に少ないという事実は、企業幹部やアナリストは男女を問わず、米国内の幅広い社会層から生まれているわけではないという点を示唆しています。言い換えれば、ダイバーシティが欠如しているということで、結論付けられるわけではありませんが、社会階層、宗教、年齢、民族性の偏りに関連しているのかもしれません。唯一の例外は男性アナリストグループで、過去15年間でダイバーシティが増し続け、今や米国人口全体とかなり似た構成にまでなっています。
関連サイト「インパクト投資家が考慮すべき6つの問題(英語)」
図表4:米国企業の決算発表電話会議における発言者の名前の集中度
出典:ローゼンバーグ株式(アクサ・インベストメント・マネージャーズ)、ファクトセット。2019年5月24日現在。
上図の数値は、集中度を示すハーフィンダール指数です。「企業幹部」はあらゆる企業幹部を、「アナリスト」は投資アナリストとしての発言者をそれぞれ指します。米国平均は生産年齢人口(1950~80年生まれ)の概数に基づくものです。上図はローゼンバーグ株式がカバーする米国証券を対象としています。
ダイバーシティに関する企業の言及の少なさ
当社は最後に、ダイバーシティやその関連項目が企業の財務報告書や決算発表電話会議で言及された頻度を分析しましたが、特定のトレンドを示す証拠は何一つ見つかりませんでした。例えば、2018年に開かれた決算発表電話会議のうち5%は、さまざま文脈で「ダイバーシティ」という語に言及していますが、この比率には2000年代半ばから変化は見られません。ただし当社では、これは特に驚くに値しないと考えています。企業が財務報告書や決算発表電話会議での話題を業績に集中させようとするのは、当然と考えられるためです。
投資家にとってダイバーシティが示唆すること
従業員や経営陣におけるダイバーシティ向上という目標を各企業が掲げ始めてから、すでに数年経っています。こうした目標は株主リターンに貢献する可能性があると当社では考えています。
当社がこれまでに見いだした証拠(英語)によれば、ダイバーシティは企業業績と正の相関があり、最も熾烈な競争下にある企業にとって、収益性を守る「城壁(競争優位性)」のような役割を果たします。ダイバーシティはもはや、「できればあったらいい」ものではなく、企業の強みとなります。こうした点から見て、今回の分析が示した米国企業におけるジェンダーバランスの向上は心強い展開といえます。とはいえ、社会全体のダイバーシティについてはまだまだ先が長いのが実情です。
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