クリーンテック戦略月次レター:EU、再生エネへ大規模投資
クリーンテック戦略月次レター(2022年5月の振り返り)
EU、再生エネへ大規模投資
エネルギー自立戦略の加速と温暖化ガス排出削減の達成に向け、クリーンエネルギーの普及や環境関連投資を支援
5月の世界株式市場は、小幅の上昇となりました。月前半は年初からの下落基調が続きましたが、後半に入り米連邦準備制度理事会(FRB)がタカ派姿勢をやや弱めたこと、中国の大都市におけるロックダウン(外出制限)が解除の方向へ向かったことなどを背景に市場は回復に向かいました。
クリーンテック戦略ポートフォリオの当月のパフォーマンスは、世界株式(MSCI ACWI、米ドルベース)を上回りました。当月は、主として北米や欧州の保有銘柄の株価上昇がプラス寄与となり、基準価額は上昇しました。
EU、再生可能エネルギーへの大幅なシフト目指し、2,100億ユーロの投資を計画
ロシアによるウクライナ侵攻の長期化により、欧州の最重要課題としてエネルギー自立戦略が進められています。欧州連合(EU)の欧州委員会は5月中旬、ロシア産天然ガスおよび石油からの脱却と温暖化ガス排出削減の2大目標の達成に向けた包括案を発表しました。再生可能エネルギーへの大幅なシフトを軸に、クリーンエネルギーの普及、省エネの強化、エネルギー供給の分散化、環境関連投資を進めます。このため、EUでは官民で2,100億ユーロ(約30兆円)前後の投資を計画しています。
当戦略のポートフォリオ・マネージャー、アマンダ・オトゥールは5月下旬に発表した記事(「ロシアとウクライナの戦争が再生可能エネルギーへの移行を加速させる3つの方法」)で、ウクライナ危機を契機に欧州のエネルギー生成・供給のあり方が大きく見直されていると指摘しています。特に、再生可能エネルギー分野に著しい長期的な影響を与えており、1)再生可能エネルギー導入の加速化、2)グリーン水素の拡大、3)エネルギー移行は譲れない、という政策立案者の認識、の3点を強調しています。
EV、新たなエネルギーインフラへの投資も
エネルギー自立問題を解決するため、再生可能エネルギーに加えて、電気自動車(EV)などの分野に多額の投資が行われようとしています。新たなエネルギーインフラとして、スマートグリッド、国境をまたぐエネルギー供給網の拡大、再生可能エネルギー発電能力の増強、エネルギー効率化、エネルギー貯蔵などが必要とされます。輸送システムは、化石燃料から電気自動車(EV)、バイオ燃料、グリーン水素などのソリューションの組み合わせへのシフトを迫られています。
中国のロックダウンの影響を注視
長引く中国におけるロックダウンは現地での生産活動にも影響を及ぼし、世界的なサプライチェーンの混乱に拍車をかけています。上海ではようやく制限解除が決定されましたが、中国は今もゼロコロナ政策に固執しています。この政策が持続可能かどうかは不透明であるため、運用チームでは、低炭素輸送分野などの産業への影響やインフレ圧力の緩和につながる可能性について状況を注視しています。
ポートフォリオの動向
当月はスマートエネルギーおよび低炭素輸送分野が当ファンドのパフォーマンスを牽引した一方、持続可能な食糧供給および廃棄物処理・資源有効利用分野はマイナス寄与となりました。
スマートエネルギー関連分野では、エネルギー効率化ソリューション企業のアメレスコ、スマートグリッドやEV充電施設を提供するアルフェンなどが好調な四半期決算を発表し、サプライチェーンの問題が続く中も堅調な2022年通期の業績見通しを示したことからプラス寄与となりました。アメレスコは南カリフォルニアにおける電力貯蔵システムが年末までに完成することを明らかにしました。一方、アルフェンは、スマートグリッド、EV充電事業、畜エネルギー事業の力強い成長を背景に2022年通期業績見通しの2度目の上方修正を行いました。
低炭素輸送関連分野では、リチウムの主要メーカーである特殊化学企業アルベマールの堅調なパフォーマンスによってプラス寄与となりました。家電製品やEVなどのバッテリーに使用されるリチウムは、需給の逼迫により価格が高騰しているため、同社は今年度の残りの期間の売上見通しを引き上げました。また同社は、世界各地に分散された大規模なリチウム資源を保有しており、拡大を続けるEV生産によるリチウム需要の増加に恩恵を受けると見られます。
一方、環境汚染防止分野では、アパレル向けデジタル・プリント企業のコーニット・デジタルが軟調なパフォーマンスとなりマイナス寄与となりました。同社によるとマクロ経済環境の不透明感が消費動向や一部の顧客企業における設備投資計画に影響を与えているとのことですが、長期的な成長見通しに変わりはないと考えています。同社の革新的なデジタル・プリント技術は廃棄物を削減し、完成までのリードタイムを短期化する自由度の高い生産を実現とすると同時に水の使用量とCO2排出量を大幅に削減することを可能とします。
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