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Investment Institute
マーケット見通し

比較的良好な環境と相場


執筆時現在、利下げサイクルが進行中です。市場では利下げの進展には時間がかかると予想されていますが、各中央銀行は市場の景気回復への期待を維持させようとしています。同時に、世界的に景気回復の幅が広がる兆しもあります。その結果、株式市場の好パフォーマ ンスが拡大しています。景気循環面の原動力はプラス方向にあり、長期的な成長テーマも強さを示しています。テクノロジー、自動化、様々な工業、ヘルスケアは、今後の市場を主導していくセクターと思われます。これは、米国に限った話ではありません。一方、債券市場は安定しており、世界経済の成長資金を調達・配分する上で大きな役割を果たしています。今年は米国大統領選挙の年であり、過去の例によれば、株式市場のリターンは良好に推移すると見ています。


嬉しいこと

先週は、米欧でソフトランディング(景気の軟着陸)のシナリオが経済データによってさらに裏打ちされたことで、資本市場も好調でした。特にスイス国立銀行と、週の終わりにメキシコ中央銀行による利下げがありました。資本市場は、米連邦準備制度理事会(FRB)やイングランド銀行からのハト派的なシグナルに好意的に反応しました。3月はこれまで(21日現在)、債券市場、株式市場ともに良好なトータル・リターンとなっており、強気相場が続いています。

始まり

先週、筆者は起こりうる「着陸」シナリオについて述べました。このシナリオは主に米国についてですが、米国の経済状況は市場の予想以上に好調です。しかし、このシナリオは世界的な景気回復という新たな段階に移行する可能性があります。その重要な要素は、金融緩和政策にあると見ています。世界的に利下げサイクルが始まっていますが、世界的な利下げのタイミングと程度は、インフレ率がどうなるかによって決まると思われます。その点、インフレ率の低下傾向が続いています。英国は先週、総合インフレ率とコア・インフレ率の数値がさらに低下しました。米国と同様、サービス部門のインフレは依然下がりにくくなっていますが、しかし、物価と賃金の動向はサービス業では沈静化の速度が遅いことは避けられないものの、方向は比較的はっきりと低下傾向を示していると見ています。

実質金利

主要国の多くは現在(執筆時)、政策金利がインフレ率(前年同月比)を上回っています。政策金利からインフレ率を引いた差は、「実質」短期金利の代用となる数字であり、米国では1年前、欧州では昨年夏の終わりにプラスに転じました。これをきっかけに、政策スタンスに対する市場の認識が「制限的」なものへと変化し、市場ではリスクオフ(投資家の不安が強まり、リスクが低く相対的に安全と思われる資産に資金を移す状況)の局面が生じました。政策金利が再びインフレ率を下回る日がすぐに来るとは予想していませんが、政策金利は低下に向かい、実質短期金利はこれ以上上昇しないと見ています。特に市場の予測では利下げ幅が小幅と見られているため、これは市場にとってはプラス材料と思われます。現在、欧米の政策金利は総合インフレ率を150~200ベーシスポイント(bp)上回っています。コア・インフレ率や、その他いくつかの構成要素を除く各種インフレ率は総合インフレ率よりも低い数字が出ており、懸念があるものの、筆者の見方では、金融政策は緩和され、その緩和の程度は、現在市場に織り込まれているよりもさらに進む可能性があると思われます。

循環的な景気回復とは?

金利の低下は、リセッション(景気後退)リスクを反映する場合でなければ、市場にとって好ましいことと見ています。最近の世界の経済データを見ると、リセッションというよりは、世界的にはバランスの取れた景気回復が進んでいるように見えます。米国、欧州、中国、英国、日本のデータは、景況感が底を打ちつつあることを示唆しています(S&Pグローバル社の購買担当者調査(PMI) からも同じ方向性が示されています)。各国の統計データを見ると、消費者信頼感は英国、欧州、日本で回復しています。また、アジアの輸出は好調を示しています。例えば、世界のエレクトロニクス・ビジネスの中心である台湾の貿易統計によると、輸出受注が増加し、米国への実際の輸出量も力強い伸びを示しています(一方、例外として中国本土への輸出は減少しています)。世界の生産者物価上昇率は昨年急落し、現在も比較的低水準にあります。生産者物価の落ち着きによって、サプライチェーン(供給網)がもっと流れやすくなると考えられるために、筆者はプラスのニュースであると考えています。こうした多くの要因が、世界の国内総生産(GDP)成長率予測の上方修正につながっていると見ています。


世界的にインフレが低下傾向

ここ数年の世界経済はショックに見舞われたため、典型的な景気循環の基準がうまく当てはまりません。労働市場に余裕がない状態ながら、世界経済は強力な政策刺激策の追い風を受け、回復の初期段階が始まっている可能性があります。もちろん、成長が世界的に回復すれば、インフレが再加速するリスクもあります。コモディティ(商品)市場ではほとんどの価格は落ち着いていますが、原油価格とガソリン価格、カカオ価格が上昇しています。しかし、そのような状況にもかかわらず、市場では、2024年には先進国と新興国の多くでインフレ率が低下すると予想されています。

市場では、堅調なファンダメンタルズと需給状況

世界経済成長のバランス改善は、すでに株式市場全体のパフォーマンスにも反映されていると思われます。欧州市場は先週過去最高値を更新し、ここ1ヵ月のパフォーマンスでは、地域的には欧州が、規模別では中・小型株の領域が、またスタイルではバリューが市場を牽引しています。社債市場も強気相場が続いており、米国の投資適格債発行額も年初来で35%増加しました。アクサIMグループでは市場の様々なファクターに点数を付け、そのファクターがリターンに与えると予想される影響を評価していますが、債券市場に関する最近の見直しでは、需給の流れの傾向を捉えるファクターではプラスの効果がありました。社債の発行は多いかもしれませんが、需要が旺盛なので、スプレッドは引き締まった動きを続けています。

原動力

金利の低下と、よりバランスの取れた世界的成長を除けば、株式市場パフォーマ ンスの長期的な原動力は、自動化、デジタル化、グリーン転換に変わりはありません。米国の鉱工業生産が低迷しているのはサイクルが減速している兆候であるとの指摘を目にします。しかし、詳細を調べてみると、産業が停滞しているのではなく、セクターによって成長率が大きく異なっています。米連邦準備制度理事会(FRB)が発表した月次データでは、生産の力強さが示されています(今年2月までの前年同期比ではコンピュータおよび周辺機器9%増、通信サービス機器25%増、航空宇宙7%増、電気機器6%増)。堅調な設備投資と力強い世界貿易サイクルの見通しから、米国株市場では市場のけん引役がテクノロジーから景気循環的な産業分野へシフトしても十分な理由があると思われます。同じような考え方は、景気循環的でバリュー指向のある欧州やアジアにも当てはまると見ています。

春の楽観論

投資家にとって、今年年初から3月のこれまでのところ、市場は非常に順調なパフォーマンスを上げていると思われます。一方で、米国のマネー・マーケット・ファンドに関するデータに基づくと、現金で保有されている資産がまだ多いことは注目に値すると思います。キャッシュ金利が下がらないため、よりリスクの高い資産クラスへの投資には心理的な障害があると思われます。しかし、金利の変動が大きく、世界の株式パフォーマンスが、割高と思われる水準の米国のテクノロジー株や、また人工知能(AI)をめぐる単一のストーリーに集中し先導されて推移しているときには、こうした状況が起こることはあり得ると考えます。筆者が感じていることは、成長の幅が広がり、調査する価値のある投資シナリオが増え、資本市場が流動的で大きな信用不安がほとんどないと思われるため、成長資金を比較的順調に調達できるということです。過去米国大統領選挙があった年のS&P500の平均リターンは約11%でした。さらに重要と思われる点は、過去10年間よりも平均金利が高いとはいえ、現在が穏やかな成長サイクルにあるとすれば、金融市場のリターンは長期平均に近くなる可能性があるということです。つまり、債券市場のリターンはここ数年よりも若干高く、株式市場のリターンは昨年よりも若干低くなる可能性があるということです。しかし、全体としては比較的良好な状況であると見ています。

データ等の出所: Refinitiv DataStream、ブルームバーグ。特に記載のない限り2024年3月21日現在。

過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。

(オリジナル記事は3月22日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

 

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S&P500指数:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の500社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。

Stoxx600指数:STOXX社が算出・公表している欧州先進国における株式市場の600社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。

MSCI 各株式指数:MSCI社が公表している先進国や新興国など各株式市場の値動きを示す時価総額加重平均型指数です。

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