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Investment Institute
視点:CIO

リスク嗜好がピークにあるキャッシュを凌駕

  • 2024年2月28日 (7 分で読めます)

主要な株式市場は史上最高値を更新しています。背景を見ると、金利はこれ以上上昇しようとする様子は見られず、景気後退(リセッション)は少なくとも米国では起こりそうにありません。信用スプレッドを見ると、多くの業務分野でバランスシートがしっかりしたものになっています。原材料価格の低下のおかげで、利益率は向上しており、また、そうした多くの分野で、技術革新が進んでいます。そうでなければ、人工知能(AI)モデルの実行に必要な高出力半導体への企業支出がこれほどまでに増加していないかもしれません。ソフトランディング(景気の軟着陸)、安定から低下に向かう金利、国内総生産(GDP)のプラス成長、現状見当たらない大規模な信用問題など、様々な要因が株式市場上昇の支援材料となっています。そして、こうした材料の中核には、米国例外主義があり、これによって欧州や日本などの密接な同盟国にも恩恵が及んでいます。こうして、強気相場となり、リスクオン(投資家のリスク選好度合いが強まっている状況)となっています。


利下げは予想よりも後ずれしそうだが、利上げはないと思われる 

米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利の今年末の水準について、市場の予想は1月12日時点では3.65%でしたが、2月22日時点では4.45%に上昇しています。この修正によると、利下げ回数も6回から3回に減少することになります。2月に入って米労働省が発表した1月の雇用データや消費者物価データが予想よりも強かったことで、FRBは利上げすることも必要だという見方も一部に出てきました。しかし、市場の全体の予想としては、オプション市場の価格を見る限り、利上げの可能性は高まっていません。

驚きはなく  

FRBや他の中央銀行が近年、市場との対話を重視する姿勢を取っています。元イングランド銀行総裁のマーヴィン・キング氏がかつて述べたように、金融政策は退屈なものであり、衝撃となるべきものではないと思います。もし、FRBの政策担当者らがインフレに対する戦いで劣勢を感じているのであれば、その劣勢についてこれまでに公式な対話の中で何らかの言及を行っていると思われます。しかし、これまでに、そうした言及はありません。FRBは、今年利下げがあると見込んでいます。21日に公表された直近の連邦公開市場委員会(FOMC) 議事録にも、利下げがあるかないかというよりも、利下げされるのはいつかという示唆になってきていました。この示唆に反して、もし仮に何の前触れもなく突然に利上げされると、市場は大きく動揺する可能性があります。 

実際には、利下げ開始までにはまだ時間がありそうですが、FRBは今年の利下げ回数が市場の思惑よりも少ない方向に市場予想を導こうとしてます。様々な米国経済データに基づいて考えれば、FRBのこの方向性は納得のいくものだと思います。しかし、FRBが特に何か言わない限り、金利は社債市場や株式市場にとって脅威とはならないと見ています。キャッシュの年率利回りは米国で5%を超え、欧州でも4%近くの水準で暫く続く可能性がありますが、主要株式市場ではこれまでのところ、こうした水準を超えるリターンになっています。

信用の耐久力  

同じFOMC議事録の中で、FRBは米国経済における信用状況について言及しています。筆者から見ると、流動性の高い社債の公開市場は、現状の景気サイクルの中では優位な投資市場であると見ています。FOMCの議事録によれば、「社債やレバレッジド・ローンを通じて借り入れを行う一般事業会社の信用の質は全般的に依然として健全である」としています。また、議事録では、クレジット・カードや自動車ローンの延滞が増加していることや、商業用不動産市場では借り入れ条件の引き締めが続き、価格が下落していることに言及していました。この言及が示している経済状況では、バランスシートにキャッシュを比較的多く保有する大型で質の高い企業については、金利の上昇がその借入にほとんど影響を及ぼしていないということであり、また一方で、比較的低所得の消費者や、不動産セクターの内で金利感応度が比較的強い事業モデルについては、何らかの影響を及ぼしていることが示されています。しかし、この影響はこれまでのところ限られた範囲にとどまっています。


米国地方銀行の業績に妨げ 

商業用不動産市場の軟調は新しいことではありません。オフィス稼働率の低下やオンライン・ショッピングの増加は賃貸のキャッシュフローや、オフィスや小売店の開発の資産価値に打撃を与えています。さらに、調達コストの上昇が不動産開発業者の純キャッシュフローを悪化させており、また、借り手の中には不動産価値に対する有利子負債の割合の観点でコベナンツ(融資契約に盛り込まれる特約事項)に抵触して、借り入れのもう一段の引上げに追い込まれるリスクに直面する業者も出てきました。こうした懸念は、米国の地方銀行でも顕在化しており、総合すれば商業用不動産ローンが地方銀行資産のほぼ30%に達しています。米国ラッセル2000株式指数の金融セクター指数のパフォーマンスは昨年ラッセル2000指数のパフォーマンスよりも約17%ポイント下回っており、S&P500を約27.6%ポイント下回りました。しかし、債券市場では、ICE米国不動産社債指数はICE米国社債指数と比較してもほぼ同様のパフォーマンスとなっており、昨年1年間では不動産指数は約8.3%、社債指数は約8.4%でした。また、執筆時の最低利回りも不動産指数が約5.6%、社債指数が約5.45%とほぼ同様の水準になっています 。

FRBが数週間前に考えられていたよりも長く金利を据え置くかどうかは、注目すべき点であると見ています。上場している米国地方銀行の昨年10-12月期(4Q)の業績は30%の減益でした。一方で、S&P 500の銀行セクターの業績(一株当たり利益、EPS)は11%の減益でした。FRBがバンク・ターム・ファンディング・プログラム(銀行向け緊急融資制度)を 3月11日に撤廃する予定であり、銀行準備金も減少しているために、流動性は少しずつ厳しくなっています。金利が依然高いままであれば、地銀セクターに対してストレスが強まる可能性があります。しかし、これまでのところ、こうしたリスクは社債市場や株式市場にとってマイナスの要因にはなっていません。今年に入って債券利回りが上昇しているために、社債でのインカム獲得の機会が継続しており、また、もしこれまで上昇してきた株式市場が悪い経済ニュースをきっかけに下落に転じると、社債市場は価格が上昇する可能性があります。 

この見方をハイイールドに向けてみると、ハイイールドは株式に似たトータルリターンを比較的小さいボラティリティで提供する可能性があるという構造的な魅力を有しています。米国ハイイールド市場の過去10年間のトータルリターンは年率で6.4%でした。ラッセル2000株式指数はその間年率7.6%のリターンでした。しかし、ハイイールドの月次リターンの年間ボラティリティは約3.8%であり、ラッセル2000の20%を大きく下回っています。

社債投資戦略の多くの機会 

これは米国の社債市場に限った話ではありません。欧州の投資適格社債のパフォーマンスは年初来で米国社債市場を小幅ながら上回っています。キャッシュ金利が高いまま推移しながらいわゆるソフトランシング・シナリオが続くのであれば、欧米のみならず、レバレッジド・ローンやアジアのハイイールド債券、新興国債券、また資産担保証券(ABS)なども良好なパフォーマンスを示す可能性があります。

空には果てがあるのか? 

先週の話題の中心は社債ではなく、エヌビディアでした。米国の半導体企業である同社は21日に昨年末四半期の業績を発表しました。業績発表には多くの期待が集まりましたが、中にはテクノロジー株式のバブルの証拠を見つけようとする市場参加者もいました。しかし、そのような証拠は見当たりませんでした。業績は前四半期を超え、市場予想も超えるものでした。米国テクノロジー企業やその他幅広いセクターの企業が人工知能(AI)やデータ管理能力拡充に資金を費やすことを受けて、同社の売上が伸びました。年率で見ると、同社の売上は米国企業が2023年に情報処理機器に費やした総額(米国の国民勘定を参照)のほぼ5%に相当します。同社の今年の見込みでは、2022年に270億ドルだった売上げは1000億ドルを上回るとしています。


生産性の向上  

エヌビディアの一株あたり収益率(12か月予想)は約29倍ですが、これを妥当な株価と見るか否かは、同社の成長が続くか否かどちらを信じるかによると思われます。比較すれば、この水準はマイクロソフトよりもやや低く、アップルよりもやや高い水準です。この企業業績や株価水準をマクロ的な観点から見ると、テクノロジーが米国経済や株式市場の業績をけん引しており、生産性や成長を高めていると見ることができます。アクサIM資産運用研究所は、今春遅くにかけて米国の例外主義に関する幅広いテーマについて考察記事を発表していく予定です。しかし、分散の効いた社債投資戦略であれ、成長株式投資戦略であれ、注目すべきは米国であると見ています。一方、リスクを考えると、米国での大統領選挙結果の違いにより政策や経済にどういった影響が出るのかも重要ですが、金利が高すぎたまま維持されて金融悪化の不安が続いてしまうことも重要なリスクです。しかし、その他にも、インパクト投資(株価リターンなど財務的な収益を追求しつつ、社会的および環境的なインパクトの創出をも目的とする投資)の投資家が生物多様性や気候変動の分野でテクノロジーを駆使して他社と実際の違いを作り出す上場企業を探し出せるようになるように、どのように米国企業が機会を作り出していけるかなど、様々な重要な観点があります。テクノロジーの急速な変化や豊富な資金調達手段がもたらすテクノロジーの拡張可能性は、インパクト投資戦略にとって、投資機会の源泉として米国株式市場の価値を高めると見ています。

ユーロ圏や英国経済はすでに着地しています。一方で、米国経済は想定を超える速度で成長が続いています。今年の米国は、これまでの数年と違って、実質成長(当社グループ予測では実質GDP2.0%増)とインフレのバランスがもっと良くなると見ています。政治面や資金調達面でリスクがあり、また、市場の投資家が過去10年間に見られた0~1%の金利ではなく4~5%の金利水準に順応していく必要がある一方で、現在の米国での投資を取り巻くマクロ環境は現状良好に見えます。金融資産は割安ではないものの、投資可能性を維持できるほどキャッシュフローの生成状況は強固であると見ています。もしテクノロジーが生産性を向上するのであれば、その結果、実質リターンが向上し、ひいては実質金利が上昇することにもつながると考えられます。その一方で、生産性の向上は収入の成長速度の加速を意味し、供給曲線(ある商品についての価格と需要を示すグラフ曲線)を右に移動(同じ価格でより多く供給できることを意味します)させます。

世界を現代化する

かつて、記事や論文を書くと、原稿がタイプ室に回され、タイプライターで打ち込まれ、そのタイプされた原稿を校正し、タイプしなおすという作業が行われていました。しかし、ワードプロセッサーのソフトやPCが開発されてからは、タイプ室が消え、大きく状況が変わりました。データなどの情報についていえば、経済分析を行う際に、例えば国際通貨基金(IMF)の月次データが月次テープ(当時の記録媒体)で提供されて、それをいったん会社のメインフレームに深夜にアップロードして、翌日端末機器で取り出して分析を行っていました。しかし今では、そうしたデータは表計算ソフトに取り込み、グラフを作ってプレゼンテーションソフトで作ったプレゼンテーション資料に張り付ける、合計で数分の作業に代わりました。しかし、もうすぐこうした作業さえ必要なくなるかもしれません。つまり、AIがとってかわり、レポートを書き、データを管理し、顧客とコミュニケーションを取り、総務的なポートフォリオ管理業務など多くの仕事をこなすようになる可能性があります。生活は急速に変わりつつあるため、信頼できる経済モデルや予測を維持できなくなる可能性もあります。しかし、これは投資の機会でもあるため、少なくとも投資の世界では現代化に対して対抗すべきではないと考えます。

データの出所: Refinitiv DataStream、Bloomberg。2024年2月22日現在。

 

過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。

企業への参照は例証のみを目的としており、投資の推奨と見なされるものではありません。

(オリジナル記事は2月23日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

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債券指数

※ICE BofA 米国社債指数、ICE不動産社債指数、及びその他各ICE債券指数:ICEデータ・インデックス社が公表している米国投資適格社債、不動産社債の値動き、及びその他の債券市場の値動きを示す指数です。

株式指数

※ラッセル2000株式指数:米ラッセル・インベストメント社が算出する米国株式市場に上場された時価総額上位1001位から3000位までの2000社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型の株価指数です。ラッセル2000銀行指数はそのサブ指数で、銀行銘柄で構成される指数です。

※S&P500指数:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の500社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。

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