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視点:CIO

頂上にて

  • 2023年9月26日 (5 分で読めます)

現在の金融政策サイクルを、南アフリカの「テーブルマウンテン(山頂が約3キロメートルにわたりほぼ平坦な山)」に喩えるのは興味深いことです。ケープタウンを訪れたことがある人なら誰でも知っているかもしれませんが、この山はケーブルカーでとてもスムーズに登ることができます。頂上からのキャンプス・ベイとケープタウン西部の眺めは素晴らしいです。ケーブルカーでの下山も同様にスムーズ。しかし、間違えてその日の最終便を逃すと、光が薄れ、山ふちに「テーブルクロスの雲」が広がる中、急斜面を駆け下るかなり困難な状況になります。「ソフトランディング」を背景にした、政策金利水準の「より高く、より長く」のアプローチは、ケーブルカーで山の麓まで戻るのと同じことです。しかし、中央銀行が判断を誤り見通しが悪化すれば、利下げに躍起になる可能性があります。

終了? 

再び、一連の中央銀行会合が終わりました。米連邦準備制度理事会(FRB)は5.25%~5.50%で、イングランド銀行(BOE)は5.25%で金利を据え置き、欧州中央銀行(ECB)は25ベーシスポイント(bps)引き上げて4.0%としましたが、「据え置き」という感じでした。FRBとBOEは、長期的な中立金利推計の引き上げを示唆し、BOEはバランスシート縮小を拡大(つまり、保有する英国国債(ギルト)のさらなる売却を約束)するなど、明らかにタカ派的な姿勢で据え置きの決定を発表しました。おそらく現在の利上げサイクルの最後の動きに対して、市場では驚くほどネガティブな反応が見られました。米国債利回りは2007年以来初めて4.5%まで上昇し、ギルトはBOEの金融政策委員会終了後に10bpsほど跳ね上がりました。中央銀行はこれに満足でしょう。今中央銀行が一番望んでいないのは、市場が金融緩和を強要することです。

金利に関する新たな前提 

過去20年の大半を占めてきた金利体系よりも高い金利体系を、投資家が織り込む必要があることは明らかです。米国における適切な中立金利をめぐる議論は、学術的なものであり、いわゆるr*金利はまったく観測できません。それでも、これには実際的な意味があります。中央銀行が、現在の中立金利が過去10年ほどの水準よりも高いと考えていれば、現在の金融政策スタンスは考えられているほどタイトではないことを意味します。金融政策は抑制的ですが、中立金利が5.50%であるとは誰も言っていません。しかし、FRBが、景気減速とインフレ率が目標に戻るさらなる証拠を確認しない限り、政策見通しは、さらに引き締められるか、現在の(引き締まった)状況を長期間維持するかのどちらかです。すべての主要中央銀行は後者を示唆しています。しかし、インフレ率が再び上昇した場合、前者の可能性も否定できません。

普通ではないプラトー(高原状態)

しかし、金利の「より高く、より長く」の状態は普通のことではありません。1970年代以降、FRBが金利サイクルのピークを長期間維持した例は1度しかありません。それは、政策金利が2003年の1.0%から2006年初頭に5.25%に引き上げられた後の2006年から2007年にかけてでした。金利は15カ月間5.25%のままでした。通常、経済の反応が大きいため、引き締め政策はすぐに反転するものです。私たちは、1995年から2000年にかけてと近い状況にあるのではないでしょうか。FRBは、1994年の3.0%から1995年の6.0%のピークまで利上げを行いました。その後、数回の調整を経て、2000年に6.5%の新たなピークに達しました。平均中立金利が高いほど金融政策の調整が頻繁に行われるため、イールドカーブのターム(リスク)プレミアムは高くなります。

以前と異なる債券投資 

上述の議論は、債券投資家にとって重要です。アクティブ運用の債券投資家はここ数カ月、利回りのピークを捉えようと、利回り低下と長期デュレーションポジションからのプラスリターンを狙ってきました。残存期間10年超の米国債指数(ICE-バンク・オブ・アメリカ)の直近四半期のリターンは、マイナス4.7%となりました。これと同等の英国ギルト指数は年初来で6.5%下落しています。市場はいっそう「より高く、より長く」と「長期中立金利の上昇」を織り込んでいます。この記事を書いている時点で、2025年1月のフェデラルファンド金利は4.56%と予想されており、いかなる利下げも来年半ばまで織り込まれていません。こうした金利期待の上昇に伴い、国債利回りも足並みをそろえて上昇しています。一方で、利回り上昇は再び長期デュレーショントレードを促しますが、他方では、中央銀行がタカ派的姿勢を緩めるまで利回りは高止まりするかもしれません。

株式投資家もまた、金利の「より高く、より長く」の状態を認識する必要があります。長期借入コストの想定は株式評価モデルに不可欠であり、他の条件がすべて等しい場合、金利が高いほど将来の収益の割引価値が低くなります。債券利回り上昇から恩恵を受ける企業もあれば、支払利息の増加で苦戦する企業もあるでしょう。レバレッジを大きく活用し、収益成長が控えめな事業は、高金利環境が長引けば、投資の観点からは非常に魅力的ではなくなります。マルチアセット投資家は、株式リスクを分散するために、債券への配分を見直すことができます。これにより、過去10年間よりも大きなインカムの投資機会が得られます。昨年はすべてが売られましたが、債券の弱気相場は永遠に続くわけではありませんし、利回りが高くなればトータルリターンに占めるインカムの割合が増えることを意味し、そして、利回りが高くなればなるほどインカムも増えます。

キャッシュに勝つ? 

利回りが当面それほど低下しない場合、債券に対する見方はどうなるでしょう?これは選別的にポジティブであり、現在の利回りを考えればそうでなければなりません。国債(リスクフリー)利回りは、イールドカーブに沿って短期キャッシュレートを下回っていますが、投資家にとってはキャッシュレートを上回る利回りを確定できる機会があります。短期クレジット戦略は依然として人気があります。英ポンド建ての1年~3年満期社債の利回りは6.0%を超えています。ハイイールド債はより高いベータの代替であり、広範な米国ハイイールド債インデックスの利回りは8.5~9.0%です。今週の当社の債券予測会議では、社債は相対価値(スプレッド)ベースで見れば特段割安ではないものの、アウトライト利回りは世界金融危機以来の高水準で、多くの場合、それ以前の水準を上回っており、非常に魅力的との声がありました。 

インフレ率が利回りを上回るスピードで低下し、実質リターンはプラスに

私の見立てでは、インフレ率がさらに低下する中、債券は今後1年間、かなりのプラスの実質リターンを提供すると思われます。中央銀行がケーブルカーに乗り遅れるとの見方が強まれば、こうしたリターンはさらに高まるでしょう。欧州の直近の経済指標では、購買担当者調査が依然として弱いことから、世界経済の一部の軟調さを浮き彫りにしています。しかし、ソフトランディングのシナリオや金利期待の安定があっても、リターンはプラスになる可能性があり、クレジットスプレッドはそのリターンを高めることができます。利回りが100bps上昇または下降した場合の債券のトータルリターンを簡単に計算すると、1年の保有期間ではプラスのリターンに偏ることがわかります。最近発行された債券の利回り水準と高いクーポンは、インカムゲイン投資家にとって優れた基盤となります。.

時代の変化

キャッシュに勝つことは依然として難しく、キャッシュ金利はしばらくの間、現在の水準で安定的に推移するでしょう。デュレーションキッカーのパフォーマンス向上を目指す利回り低下への賭けは、ここ数カ月間は成功していません。しかし、有意義な時間軸で見れば、デュレーションが3カ月を超える債券を保有することの複利効果により、最終的にはキャッシュ金利を上回るリターンをもたらすでしょう。利回りがゼロに近かったころ、債券を選好する人はいませんでした。量的緩和時代は、投資家よりも借り手に有利な市場でした。そんな日々は終わりました。現在、借り手のキャッシュフローとバランスシートが十分強固で、高い借入コストの支払いに対応できるかに注意しなければなりませんが、投資家へのリターンははるかに魅力的です。債券の復活です。  

(パフォーマンスデータ/データソース:Refinitiv Datastream、Bloomberg)。過去のパフォーマンスは、将来のリターンを示すものではありません。

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