欧州経済は市場で考えられているよりも良好な状態にある
欧州経済は市場で考えられているよりも良好な状態にある
Written by Isabelle Mateos y Lago, Group Chief Economist, BNP Paribas
最近の国際的な経済・金融会議では欧州に対する関心が著しく低く、欧州中央銀行(ECB)ラガルド総裁が呼んだ「欧州の瞬間」は多くの人々の目には、まるですでに過ぎ去ったかのようだと当社と同じBNPパリバ・グループのチーフエコノミスト Isabelle Mateos y Lago は評しています。(オリジナル記事は11月18日にBNP Paribas Economic Researchに掲載されました。)
一方、欧州のメディアは、政治的リスク、長引く産業不振、米国と中国による支配がますます強まっている世界において欧州の地位を維持するための改革が実施できていないといった、否定的な論調を続けています。
しかし、目立たないながら、プラスの要素は多数見受けられます。
活動:幅広く向上の方向
過去3週間、予想外であったユーロ圏の経済データは主として上向きであり、しかもその差は拡大しています1。今年7~9月期のGDPは概ね市場予想を上回り、ユーロ圏全体の成長率は4~6月期との比較で0.2%増、前年同期比では1.4%増となりました。この押し上げ要因となったのは、前期比0.5%増というフランスの予想外の好調さやスペインの継続的な強さ(0.6%増)でした。
一方で、確かにドイツとイタリアは停滞しました。しかし、夏場の低迷の最悪期は終わったという兆候もあります。実際、9月の鉱工業生産と自動車登録データでは、各地域や3大経済圏(ドイツ、フランス、イタリア)の間で活況を呈しました。
さらに欧州委員会の四半期調査によると、ユーロ圏全体の設備稼働率は78.2%(1年半ぶりの高水準)に上り、受注高は3年半ぶりの高水準を記録しました。
米国向けを含む輸出は驚くほど底堅く推移しています。米国の急激な関税引き上げと、中国からの競争圧力激化という厳しい環境にもかかわらず、欧州と第三市場の双方で、ユーロ圏の輸出は9月に大きく回復しました(前月比4.7%増、これは新型コロナ期以来最大の月間増加率に当たります)。
この結果、輸出は4月から8月にかけての低迷から転換しました。全体として輸出は引き続き増加傾向にあり、12ヵ月移動平均では過去最高を記録しました。
調査データからの判断では、10~12月期も好調なスタートを切りました。S&Pグローバルが11月初旬に発表した購買担当者景気指数(PMI)では、ユーロ圏企業の10月の生産高の増加が5カ月連続で加速し、全体的な拡大ペースは2023年5月以来の高水準となりました2。
内需に牽引されたサービス部門の成長率向上は製造業生産高のさらなる伸びを伴い、生産高は8カ月連続で増加しました。これはパンデミック以降、この部門にとって最高の時期となりました。
S&Pグローバルによれば、これらの結果は「ユーロ圏のGDPが四半期ベースで0.3%成長していることを概ね示している」、つまり7~9月期から加速していることになります。機械・設備など、活動が最も力強く増加したセクターは、ドイツの公共投資支出の増加(9月末現在で2024年と比べて30%増)と一致しています。
実際、ドイツのPMIは生産高が2023年5月以来最も速いペースで増加したことを示し、企業は内需状況の改善を報告しています。
対照的にフランスのPMIは10月、より深刻な縮小を示唆しました。しかしこれは国内データ、特にフランス銀行による10月と11月の活動調査からは裏付けられていません。これはサービス業と製造業の双方で活動が予想以上に加速しており、建設業だけが縮小を続けていることを示しています(実際にドイツとは異なり、フランスのPMIはここ数年、GDPの予測指標として良く機能していません)。
これとは別に、欧州委員会(EC)が毎月集計している景況感指数(ESI)は今年10月まで5カ月連続で大幅に改善し、18カ月ぶりの高水準を記録しました。すべてのセクターで改善が見られます。
いずれも長期平均をやや下回っているのは事実ですが、政策の不確実性が数十年来の高水準にあり、世界経済と地政学的秩序が大きく変化している現状では、景況感に改善が見られることは驚くべきことでしょう。心強いことに、四半期ごとのESI調査は受注高の大幅な改善を示しています。
消費は依然として全体的に弱く、小売売上高が活力に欠ける一方で、消費財PMIは明確な改善傾向にあり、消費者サービスPMIは活動の拡大を示し、消費者の失業予測(EC調査)は10月に大幅に改善しました。
同様にECの消費者信頼感速報値は、ユーロ圏でマイナス14.2ポイント(0.7pp増)と2カ月連続で上昇しました3。これにより消費者信頼感は長期平均値に近づき、2025年4月以降のほぼ横ばいの傾向から改善しています。
重要なことは、家計の財務状態が健全(貯蓄比率が高く、負債が少ない状態)であり、景況感が好転すれば消費を下支えすると考えられることです。
さらに、インフレが減速を続け、2026年には2%を下回ると予想されている一方、ECBの賃金トラッカーは将来予測として2%以上の賃金上昇を示唆しています4。これは、失われた購買力をさらに回復させるのに役立つでしょう。このことは極めて重要なことです。というのもBNPパリバ・グループの分析によれば、賃金を主な収入源とする大多数の人々にとって、購買力はまだインフレ前の水準に完全に追いついていないからです5。
- See Citi Eurozone Economic Surprise Index.
- https://www.pmi.spglobal.com/Public/Home/PressRelease/223ebbc5708245de8b680cd0abf17f65
- 欧州連合統計局(ユーロスタット)、10月23日。
- https://data.ecb.europa.eu/data/datasets/EWT/EWT.M.U2.N.WT.INWS._T.4F0.GY
- BNPパリバ・グループのレポート「Has households' purchasing power returned to its pre-inflation level? 」を参照。それ以来、ドイツと日本を除いて、回復度は数パーセントポイント上昇しました。
EUの企業や、特に米国をはじめとする一部の貿易相手国の間で、欧州の成長が過剰な規制や官僚主義によって阻害されているという見方が広まっている一方、 欧州の競争力に関する2024年9月のドラギ報告書以来、ブリュッセルのEU本部および同圏の各首都で変化の風が吹いています。
当初はほとんど気づかれない微風でしたが、ここ数カ月で勢いを増し、さまざまな部門でインパクトのある結果をもたらし始めています。最も注目すべきは、COP30に向けた炭素排出量削減目標が実利的に調整され、排出量取引制度拡大版の導入が2年延期されたことです。
欧州議会は先週、気候変動に関する情報開示とESGデューデリジェンス要件の大幅な簡素化を承認しました。これらの変更は、欧州産業の大部分にとって歓迎すべき救いの手となるでしょう。
他方で金融部門では「トレーディング勘定の抜本的見直し」など、欧州の銀行が英米の銀行に対して不利になるような規制の発効が延期されています。金融サービス担当のアルブケルケ欧州委員は6、「レジリエンスを競争力に、慎重さを進歩に、規制を成長のインセンティブに変える時が来た」と認め、欧州における「知的なリスクテイク」の拡大を呼びかけました。
同様に心強いのは、欧州委員会が金融市場監督の主要部分を一元化する計画を年末までに提出すると発表したことです。これは統合度のより高い「貯蓄・投資同盟」に向けた大きな一歩となる可能性があるとみています。
人工知能(AI)規制や合併規則の見直しなどの分野では、競争力と主権への配慮が求められつつあります。
最後になりましたが国防は、全会一致を必要としない新しい形態の政府間協力に向けた領域として有望であることを証明しています。
2024年ドラギ報告書の精神に同調した欧州の政策決定者たちが、より断固とした形で行動に出ると考え落胆していた人々にとっては、これらすべてが福音となるでしょう。
- https://internationalbanker.com/banking/from-stability-to-ambition-the-next-chapter-for-europes-banks/
欧州:AIをはじめとする先進技術の導入
AIやその他の先端技術に関して、欧州は米国や中国に絶望的に遅れをとっているように描かれることがありますが、現実はやや異なります。
欧州投資銀行によると7、EU企業の多くがデジタル技術を活用しており、その程度は米国企業と同程度です。製造業では、ビッグデータ/AIの利用に関しては実際、EU企業の方が多く利用しており(米国企業の28%に対しEU企業の48%)、ロボットによる自動化でも同様(米国企業の36%に対しEU企業の55%)です。
しかし、サービスやインフラ部門では逆に米国が多くなっています。全体として、EU企業の約37%が生成AIを使用しており、これは米国企業と同水準です。また、人口1人当たりで見ると、欧州のAI専門家の数は米国を30%上回っています。
米国の知的財産生産物への投資レベル(2024年にGDPの6.8%)に対抗するのは難しいものの、スウェーデン(7.3%)とデンマーク(7%)ではそれ以上の比率であり、フランスでも無視できない比率(5.2%)です。このダイナミズムは労働市場にも反映され、2019年末以降、ユーロ圏における雇用純増数のほぼ3分の1(700万人中190万人)をハイテク部門が占めています8。
まとめると、深い構造的変化が進行中であり、成長は幅広い部門と国々で強化されています。
確かに欧州は他の主要経済圏と同様、人口動態や財政、AIや気候変動への適応といった構造的な課題に直面しています。そして国防、経済主権、先端技術の生産など、重要な分野で遅れを取り戻す必要があります。これらすべての面で、より早く、より多くのことを行う必要があると考えています。
しかし欧州には成功に必要なロードマップ、人材、資金があり、こうした前向きな傾向の持続可能性を危うくしかねない明らかな不均衡や深い社会的分裂に悩まされることは、他地域に比べてはるかに少ないとみています。欧州に今欠けていることは、成功を祝おうとする米国人の才能とセンスを見習うことではないでしょうか。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。
(オリジナルの投資見通しは11月24日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
本資料は、当社と同じBNPパリバ・グループであるBNPパリバ・アセットマネジメント株式会社より提供されたものを加工して掲載しております。
- https://www.eib.org/en/press/all/2025-383-european-firms-show-resilience-invest-in-green-transition-and-match-us-companies-in-adopting-ai-technologies-new-eib-survey-shows
- BNPパリバ・グループのレポート「Job creation in high technology, driving force of the labour market in the eurozone(ユーロ圏の労働市場の原動力、ハイテク分野における雇用創出)」を参照。
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