
あと2年、それとも、2週間?
S&P 500指数は今年、3年連続で20%のリターンを達成する見込みです。いわゆる3連覇は異例ですが、1990年代後半にはほぼ5連覇を達成していました。その上昇相場は、最初のインターネット革命によって促進されました。最近の相場上昇の背景には、人工知能(AI)革命があります。それに関して、AXA IM Core Investments のCIOであるChris Iggoは、以下の見解を示しています。
AI革命は世界中の株式市場を支えており、金融緩和と財政引き締め後退と相まって、循環成長の基盤を支えています。今のところ、勢いは強く、富は増大し、関税と地政学的リスクは薄れつつあります。上昇相場がまだまだ続いています。しかし、もしAIが少しでもバブルだとすれば、その余波は甚大なものとなるかもしれません。
- 主要なマクロ経済テーマ – 大きな資産効果、信用供与の拡大、そして緊縮財政の後退
- 主要な市場テーマ – 米国株式市場への集中進行、信用力への懸念の高まり
強気のテーマ
経済成長を牽引する3つのテーマがあります。1つ目は、株式市場の好調なパフォーマンスに起因する資産効果です。2つ目は、クレジット(信用)ブームを支えている金融緩和です。3つ目は、財政政策が決して引き締め的ではないことです。資産効果は、個人消費と、企業の買収や設備投資による事業拡大を支えています。金融緩和は、社債市場の発行増加とスプレッド(信用格差による利回り差)縮小に見られるように、活況な信用供与環境を支えています。財政拡張主義は、ポピュリズム(大衆主義)の勝利と安全保障の必要性から生まれたものであり、防衛、インフラ、テクノロジーといった分野に公的資金を投入しています。全体的なマクロ経済の先行きについて、少なくとも金融市場のパフォーマンスから導かれる見通しは、依然として強気のままです。
より豊かに
資産効果は強いものがあります。ブルームバーグのデータによると、MSCIワールド指数の時価総額は2025年に12兆ドル(16%)増加しました。米国では、S&P 500指数が約7.7兆ドル増加しました。指数上位8銘柄(マグニフィセント7のうち上位6銘柄に加え、テスラとブロードコム(テスラに代わり7位に上昇))が、そのほぼ半分を占めています。米国の2025年4~6月期名目経済成長率の推定値と比較すると、これらの銘柄の時価総額は米国経済規模の約70%に相当し、10年前の12%から増加しています。ビットコインも見てみましょう。もちろん株式ほど広く保有されているわけではありませんが、時価総額は今年約3,700億ドル増加しました。金投資家もまた、価格上昇を実感していると思われます(金の米ドル価格は55%上昇)。
テクノロジーが牽引役
人工知能(AI)とブロックチェーン(分散型台帳技術)は市場を牽引しているテクノロジー分野です。米国のテクノロジー企業が数十億ドル規模の相互投資契約を発表しない日はないほどです。その多くはテクノロジー企業同士のものであり、市場ではその循環性が指摘されています。これは、AI開発業者がコンピューティングパワープロバイダー(コンピューターシステムによる情報を処理しタスクを実行する能力を提供する企業)に投資し、そのプロバイダーが半導体チップメーカーに投資し、そのチップメーカーがAI開発業者の株式を取得するという循環性です。AIに関連する競争は、人材、資本、データセンターインフラ、水道・電気、そして顧客の獲得競争を生み出しています。このセクターは成長に必要なものに対する膨大な需要を生み出しているため、これに関連する数字は驚異的な水準に達し増加を続けています。公益事業セクターが今年、S&P 500セクターの中で3番目に好調なリターンを上げているのも当然とみています(それでも、株価収益率(PER)は情報技術・通信サービスセクターを下回っています)。
お金が増えれば、支出も増える
AIブームが株式市場に与えている影響によって、家計資産が増加しています。米連邦準備制度理事会(FRB)の資金循環データによると、家計純資産は今年6月末までの6ヶ月間で5.3兆ドル増加しました。この影響は、高所得者層に有利に働く傾向があり、所得格差を拡大させながらも、依然として消費支出を押し上げる要因となっています。政府機関閉鎖、雇用への慎重姿勢、そして消費財価格(特に輸入品を含むもの)の上昇による低所得世帯への圧迫は、非常に異なる形の消費経済が並存していることを意味しています。富の蓄積は、ごく一部の資産グループとごく一部の資本所有者グループで起こっていることです。これは経済成長を押し上げる一方で、将来的には社会的・政治的リスクを生み出す可能性があるとみています。
信用供与拡大
米国の政府機関による経済指標は発表されていないものの、市場は依然として、2026年末までにFRBが125ベーシスポイント(bp)の利下げを行うことを織り込んでいます。この織り込みには、関税関連のインフレは一時的なもので、FRBに金融緩和の余地を与えるという前提が含まれています(米国政権や政権によるFRB理事指名によってもFRBの金融緩和が促されています)。資産価格の上昇と金利の低下は信用供与の伸びを刺激しています。銀行の融資基準はここ数ヶ月で緩和されており、融資は堅調に増加しています。ICE BofA投資適格債指数に含まれる社債の残高は、債券価格の上昇と堅調な発行状況を反映して今年3,250億ドル増加しました。ハイイールド債市場では、社債の残高が額面で640億ドル増加しており、民間での信用供与フローが非常に堅調であることがわかります。債券市場を巡る最近の動向をみると、AI投資の資金を調達するために、資産担保証券を含む債券の発行が急速に増加しています。こうした動きはいずれも、経済が差し迫った景気後退の危機に瀕していることを示唆するものではないでしょう。むしろ、米国経済は単一テーマで動いているという見方を指摘するものでもあります。
財政緊縮政策なし
国債市場では自警団*に落ち着きがありません。市場では財政運営に対して全般的には不満が広がっています。ポピュリズムとそれに伴う政治的分裂は、政府が税制や歳出に関して厳しい決断を下すことを阻害する傾向があります。フランスと英国の現状がそのことを示しています。米国型のポピュリズムは、高所得納税者と財政赤字拡大に有利な財政姿勢を形成することに成功しています。債券市場はやや膠着した状態にありますが、これは投資家が英国とフランスの予算発表を待ち、米国ではFRBの利下げと継続的な経済成長見通しに安堵しているためであり、その結果、債券の長期利回りは安定しています。
*:財政の規律のゆるみに対して利回りが上昇して警告を知らせる債券市場の役割
経済協力開発機構(OECD)は、2025年6月の経済見通しで、各国政府は債務の持続可能性に焦点を当てる必要があると警告しました。しかしながら、政府赤字は依然として相当な規模にとどまると見込んでおり(OECD加盟国全体の財政赤字は2026年にGDPの4.7%に達する見込み)、米国とドイツは共に財政刺激策を実施するだろうとしています。高市早苗氏が自民党総裁に選出され、次期首相に就任する可能性を受け、日本も米独のこうした方針に加わる可能性があるでしょう。各国政府は防衛費の増額や、再生可能エネルギー、デジタルインフラ、その他の重要技術への投資支援を迫られています。大幅な歳出削減の余地はほとんどないとみています。現状は、2010年代後半の緊縮財政時代からは程遠い状況です。
マクロテーマの勢い
これらのマクロ経済テーマは勢いを増しており、株式市場とクレジット市場の割高なバリュエーション(投資尺度)を支えています。バリュエーションの上昇は、人々が利益を上げているという強いセンチメント(市場心理)を支えています。市場を動揺させるには、何か大きな出来事が必要になるでしょう。
AI向けインフラ整備に費やされている資金の全てが経済全体の生産性向上をもたらすかどうかという疑問には、まだ解答がありません。AI開発競争の最前線に立つ企業が、資金を注ぎ込みながら負債を増やしているにもかかわらず、持続的な高収益成長によって投資を最大限収益化できるかという疑問に対してもまだ解答がありません。これはバブルのように見え、そうであると主張する人も増えていますが、何がそれを崩壊させるのかは予測できません。
今のところ、ドナルド・トランプ政権は、AI開発に取り組む民間企業の富と力の増大を容認しているように見えます。しかし、AIの一部は国家安全保障上極めて重要なものとなるとみています。政治的に見て、これほどの力と富、そして技術の支配権が少数の民間企業に集中していることは、果たして容認できることでしょうか?上位8銘柄の売上高の合計は、米国GDPの7.5%に相当し、増加傾向にあります。米国はますますAIに巨額の投資をしています。そこには、集中と失望のリスクが高まっているとみています。また、経済の残りの部分(非テクノロジー企業や家計)が、生産性向上という目標を実現するために必要なAI投資を行える余裕があるかどうかも疑問です。また、成長には他にも限界があり、データセンターの電力供給と冷却能力もその一つです。巨大なAIシステムに電力を供給するために電力使用量を配給制にする世界を想像するのは、あまりにもディストピア的でしょうか?
借入
信用ブームもまた、懸念材料となるでしょう。スプレッドの縮小については、これまで何度も述べてきました。依然として、ほとんどの社債ファンダメンタルズは堅調であり、超過リターンはプラスを維持できると考えています。しかし、信用問題が発生するのは、通常、投資適格債市場ではありません。問題はハイイールド債市場やレバレッジドローン市場といった、財務レバレッジが高めの構造にあります。投資家の多くは、レバレッジが高く、インタレスト・カバレッジ(企業の借入金等の利息の支払い能力)が低いプライベートクレジット市場(非公開クレジット市場)を懸念する声も上がっています。米国のインフレ率が上昇する中で、FRBがより強硬な姿勢を取ることはリスクとみています。市場が金融政策に対する期待を修正せざるを得なくなった場合、国債の利回りとスプレッドの両方が上昇する可能性があるとみています。
「FOMO」は「カサンドラ」に勝つ (場合が多い)
過去を振り返ってみると、カサンドラ(警告を発しても同調者がいないことに悩む人)になっても一般的には報われません。取り残されることへの恐怖 (FOMO: Fear Of Missing Out) を持つ楽観主義者は、カサンドラのような永遠の悲観主義者よりも強い力を持っているとみています。しかし、時折、市場には弱気相場があります。現在の勢いを維持するには、多くの好材料が起こり続ける必要があるとみています。投資ポートフォリオを守りたいという気持ちを理解することはできます。その際には、集中とリスクを認識することが重要とみています。前述したように、S&P500指数は今年も20%のプライスリターン(株価上昇によるリターン)に向かって推移しています。そうなれば、これは3年連続となります。一方で、1940年代以降、3年連続でプライスリターンが20%以上上昇したことはほとんどありません。1995年から1998年にかけてだけ、4年連続でプライスリターンが20%を超えて上昇し、1999年には市場が19.5% 上昇し、ほぼ5年連続で上昇した時期がありました。その後、3年間はマイナスのリターンが続きました。これが最初のインターネットブームであり、今回は2度目のブームです。この状況はさらに2年続く可能性もありますが、富の崩壊と景気後退に終わる可能性もあるかもしれません。1950年以降のS&P500指数のプライスリターンは年平均で8.12%です。このようにみたときに、平均回帰へのヘッジは必要かもしれません。
パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ICEデータサービス、ブルームバーグ、アクサIMグループ。特に記載がない限り、2025年10月9日現在。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。また、記載内容は、2025年10月9日現在の資本市場を説明したものであり、特定の金融商品への勧誘や推奨を意図したものではありません。
(オリジナル記事は10月10日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
※本資料で使用している指数について
MSCI ワールド指数:MSCI社が公表している世界の先進国の株式市場の値動きを示す時価総額加重平均型指数です。
S&P500指数:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の500社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。
ICE BofA 米投資適格社債指数、ICE BofA 米ハイイールド指数:ICEデータ・インデックス社が公表している米国の投資適格社債、及び米国のハイイールド社債の値動きを示す各指数です。
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