
債券戦略で注目すべき3つのポイント
主なポイント
その場合、債券市場での分散投資戦略が今後のボラティリティを乗り切る上で役立つ可能性がるとみている
欧米の主要市場は今夏好調に推移しました。史上最高値を更新する株式市場があり、投資適格債市場とハイイールド債市場のスプレッド(信用格差による利回り差)はそれまでの拡大傾向から反転し、現在(執筆時)は歴史的に縮小した水準にあります。
マクロ経済の観点からは、市場での関税に関する議論はこれまでのところ収拾できないほどに激化してはおらず、市場は合意を楽観視しているように見えます。つまり、市場は企業の利益率や消費者の購買力に影響があるとは予想していません。
全体として、市場は現在進行中の世界的な地政学上の事態や米国の予想以上の財政赤字にも特に動揺していないように見え、また、その一方で大手テクノロジー企業は人工知能ブームの後押しを受けて、これまで以上に力を増しているようです。見通しは良好と見えますが、実際にそうなのでしょうか?
アクサIMグループは、現在のところ考慮されていないものの注目すべき要因が3つあり、したがって市場は少し自己満足し過ぎているのではないかとみています。
1. インフレ対成長のジレンマ
関税水準がほぼ明らかになったことで、不確実性の多くが解消されました。これにより、リスク資産は好調に夏場を乗り越えました。しかし、この新しい関税が世界経済にどのように影響するかという疑問には、まだ答えが出ていません。
関税は需給ショックを引き起こし、成長鈍化につながるという見方もできます。一方で、関税の引き上げが米国で直接物価を押し上げ、インフレ率が上昇する可能性があります。意外なことにここ数カ月、上記のいずれも観測されていません。
米国のシティ・インフレーション・サプライズ指数はここ数カ月一貫して低下しており、ほぼ2015年6月の低水準に戻っており1 、、米国では8月の軟調な雇用市場にもかかわらず、経済成長は特に底堅い推移を続けています。これは「解放の日」(2025年4月2日)以降、関税交渉を進めるために、関税免除が迅速に実施されたことにより、企業が関税の発表に先立って駆け込みの注文があることを見込む時間があったからかも知れません。
しかし今後は、企業が関税率の上がった環境の中で事業を展開しなければならなくなるため、今後発表される経済データには影響が大きくなることが予想されます。
こうして、今後不確実性が大きくなり始める可能性があるとみています。米国におけるスタグフレーション(景気後退と物価上昇が同時に起こる経済現象)のリスクが影を落とし、連邦準備制度理事会(FRB)は苦境に陥るかも知れません。現在(執筆時)、FRBの見通しでは年内に2回利下げすることが示唆されており、市場はすでにこれを完全に織り込んでいます。一方で、FRBの政策金利は中立金利に近い水準にあるため、今後数カ月の間に成長率が大幅に悪化しない限り、さらに利下げする余地があるとは考えにくい状態とみています。
欧州では、インフレは中心課題ではありませんが、成長見通しは今後注視されるでしょう。米国の関税は当然、企業の利益率に影響を与え、成長見通しを圧迫する可能性があるとみています。これらが年末までに悪化するであろうと市場では予想されていますが、欧州中央銀行(ECB)が政策金利をこのまま据え置いても問題がなさそうであることから、もし環境が予想外の方向に転じてそれに対応するとしても、ECBはFRBよりもはるかに有利な立場にあるとみています。
2. 財政政策と供給動向
英国は、さらなる増税が成長に影響を与えるとの懸念が高まる中、借入コストが過去約30年間で最高となり、債券市場が財政要因にいかに敏感でありえるかを思い知らされつつあります。2
英国は依然として厳しい道を歩んでいますが、これは英国に限りません。日本はここ数カ月間、財政見通しや発行動向に対する市場の信頼を取り戻すのに苦労してきました。日本の30年国債利回りは2025年初頭から90ベーシスポイント(bp)以上上昇しており、史上最高水準にありますが、超長期国債の発行を減らすという日本政府の言質に対し、市場はあまり反応しませんでした。
欧州では、ドイツが3月に5,000億ユーロの大規模な財政計画を発表し、1日で国債利回りが30bp以上上昇しました。ドイツはすでに、7~9月期の供給量が従来の予想を上回ることを発表しています。欧州諸国も大半は今後数年間で国防費を増やすことを約束していることから、供給量増加はドイツだけではないとみています。
加えて、トランプ米大統領はOBBB(一つの大きくて美しい法案、米国予算法案の名称)に署名したばかりで、これには間違いなく、内需だけに頼ることのできない追加的な資金需要が必要となります。9月に入り市場が回復するにつれて、需要が供給を満たすかどうかを注視することが重要になるでしょう。応札倍率が悪化すれば、債券市場にさらなる圧力がかかる可能性があります。様々な地域で10年から30年債のイールドカーブ(金利曲線)がスティープ化(急勾配化)していることに表れているように、このリスクは市場ですでに認識されていますが、需要が不足すれば、この傾向はさらに拍車がかかる可能性があります。
3. 既知の未知
前述したように、取り巻く状況の多くが順調に進むように見えており、市場ではリスクが高いほど良いという姿勢が受け入れられています。しかし、このような強いセンチメント(心理状態)と低いリスク認知度には注意が必要とみています。警鐘は通常、観測されていないもの、あるいは単に無視されていたものから訪れるからです。
世界の情勢を見れば、債券市場に影響を与える可能性のある大きな「既知の未知」がまだかなりあるとみています。
- 米大統領は不安定な状況を作り出すのが好きで、まだいくつかのサプライズを用意しているかも知れません。例えば、米国の金融機関を弱体化させ続ければ、いつかは投資家の信頼を失いかねません。
- 地政学的リスクが構造的に高まっており、市場の緊張に拍車をかける可能性があるかもしれません
- 政治的リスクも同様であり、たとえばフランスはまだ危機を脱していません。フランソワ・バイル首相が予算審議に先立ち9月8日に招集した信任投票は、すでにフランスの国債スプレッド(信用格差による利回り差)に拡大圧力をかけており、リスク選好度を広範囲に圧迫する可能性があるかもしれません
これらのリスクは適切に観測されておらず、いつ、どのように顕在化するかわかりません。しかし、リスク資産が史上最高値を更新している今、市場を揺るがすのにそれほど時間はかからない可能性があります。
歴史的な観点では、欧州で成長が減速しインフレが抑制されると予想される時期に、ユーロ金利は歴史的な高水準に近づいています。そして、上述のように、アクサIMグループは、質への投資に逃げるよう促す可能性があるテールリスク(発生確率は低いものの、発生すると市場の暴落などを引き起こす可能性があるリスク)の多くを特定できます。
多くの新たな問題が発生する可能性があり、今後数カ月は順風満帆ではないかもしれません。しかし、ボラティリティ(変動)が投資機会をもたらすこともあることを思い出してもよいでしょう。厳しい環境にありながら、アクサIMグループは引き続き世界の債券ユニバース全体で良好な投資機会を見出しています。現在の債券市場のバリュエーション(投資尺度)とマクロ経済的背景を考慮すれば、ユーロ債券市場への投資戦略は特に良好とみています。
全体として、債券投資戦略から最大限の利益を得たいと考える投資家にとって、デュレーションと信用リスクを組み合わせた分散型の投資戦略が、特に市場の混乱が高まっている時期には適切なソリューションになりうると考えます。
(オリジナル記事は9月4日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
本資料で使用している指数について
シティ・インフレーション・サプライズ指数:シティ・グループが公表しているインフレ率について市場予想と実績値の差を示す指数です。
※本資料中の指数等の著作権、知的財産権、その他一切の権利はその発行者に帰属します。
- PGEgaHJlZj0iaHR0cHM6Ly9lbi5tYWNyb21pY3JvLm1lL2NoYXJ0cy80NTg2Ni9nbG9iYWwtY2l0aS1zdXJwcmlzZS1pbmRleCI+V29ybGQgLSBDaXRpIFN1cnByaXNlIEluZGV4IHwgTWFjcm9NaWNybzwvYT4=
- PGEgaHJlZj0iaHR0cHM6Ly93d3cuYmJjLmNvbS9uZXdzL2FydGljbGVzL2M3NTQ1eXowMTcxbyI+QXV0dW1uIEJ1ZGdldCB3aWxsIGJlIG9uIDI2IE5vdmVtYmVyLCBSYWNoZWwgUmVldmVzIGFubm91bmNlczwvYT4=
ご留意事項
本ページは情報提供のみを目的としており、特定の有価証券やアクサ・インベストメント・マネージャーズ・グループ(アクサIM)またはその関連会社による投資、商品またはサービスを購入または売却するオファーを構成するものではなく、またこれらは勧誘、投資、法的または税務アドバイスとして考慮すべきではありません。本資料で説明された戦略は、管轄区域または特定のタイプの投資家によってはご利用できない可能性があります。本資料で提示された意見、推計および予測は掲載時の主観的なものであり、予告なしに変更される可能性があります。予測が現実になるという保証はありません。本資料に記載されている情報に依拠するか否かについては、読者の独自の判断に委ねられています。本資料には投資判断に必要な十分な情報は含まれていません。
投資リスクおよび費用について
当社が提供する戦略は、主に有価証券への投資を行いますが、当該有価証券の価格の下落により、投資元本を割り込むおそれがあります。また、外貨建資産に投資する場合には、為替の変動によっては投資元本を割り込むおそれがあります。したがって、お客様の投資元本は保証されているものではなく、運用の結果生じた利益および損失はすべてお客様に帰属します。
また、当社の投資運用業務に係る報酬額およびその他費用は、お客様の運用資産の額や運用戦略(方針)等によって異なりますので、その合計額を表示することはできません。また、運用資産において行う有価証券等の取引に伴う売買手数料等はお客様の負担となります。
アクサ・インベストメント・マネージャーズ株式会社
金融商品取引業者 登録番号: 関東財務局長(金商) 第16号
加入協会: 一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人投資信託協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会、日本証券業協会
お問い合わせ先:TOKYOMARKETING@axa-im.com