石油ショックは、イラン紛争が早期に集結しない限り、インフレとボラティリティにつながる
中東紛争と、その後に続くエネルギーショックは今後数か月のうちに世界のインフレを著しく加速するリスクがあります。これに関連して、AXA IM Core Investments のCIOであるChris Iggoは、以下の見解を示しています。
このリスクは、以前の中東紛争から得られた教訓です。
エネルギーショックの後には一般的に債券利回りが上昇し、金利が変動する傾向があります。典型的には、その次に経済成長が鈍化します。紛争が長びくほど、市場には悪影響となり、クレジットスプレッド(信用格差による利回り差)が拡大し、株式のバリュエーション(投資尺度)が低下することになります。
人工知能が生み出す明るく輝かしい未来への期待は、短期的なリスクプレミアムの上昇を相殺するものではないでしょう。紛争終結後には、バリュエーション面で投資機会が生まれるとみています。それまでの期間、デュレーションが短く、信用力が高く、インフレに強い資産は、ある程度の防御策となる可能性があるとみています。
- 主なマクロ経済テーマ– 今後インフレ加速と成長鈍化に見舞われるのか?問題はどの程度の大きさかという点にあるとみている
- 主な市場テーマ – リスク回避の動きは、割高な資産を再評価する動きにつながる可能性があるとみている
ショックに直面
市場は、イラン紛争のマクロ経済への影響をリアルタイムで織り込もうとしています。このプロセスは、トレーダーや投資家が最悪の事態は過ぎ去ったと判断できるまで続くでしょう。現在(本稿執筆時点)では、それがいつになるかは明確ではありません。
世界の石油市場は依然として注目されています。現在のブレント原油価格は1バレル100ドルです。これは昨年の最安値と比較して90%の上昇、ほぼ一年前の2025年3月13日と比較して66%の上昇となっています。米国指標であるウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)原油1については、それぞれ85%と60%の上昇となっています。この後も、これらの価格は大きく変わっている可能性が高いとみています。
今のところ、これらは大きな動きです。過去最大ではないものの、それでも著しい動きとなっています。2022年のロシアによるウクライナ侵攻の翌日、ブレント原油価格は前年比で112%上昇しました。1974年以降、月次データを用いると、原油価格が前年同月比で50%以上上昇した月は85回ありました(100%以上上昇したのはわずか18回)。
こうした場合、すべてではないものの大半において、米国のインフレ率は4%以上に上昇しました。天然ガス価格や欧州のインフレ予測の上昇は、欧州の金利上昇につながると予想されるでしょう。2021年、2022年以降に2度目のインフレショックが発生すれば、市場と生活水準に深刻な打撃を与える可能性があるとみています。
- 米国南部のテキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される原油の総称であり、ニューヨーク・マーカンスタイル取引所で取引されている先物価格は、世界の原油市場の代表的指標となっています。提供される情報の正確性・完全性・最新性については、当社および情報提供元は一切保証いたしません。
インフレが待期中
エネルギー価格の上昇を通じたインフレの加速は、消費者の実質所得と企業の収益性に悪影響を及ぼします。インフレが長引けば長引くほど、経済成長見通しは悪化します(消費者の消費と企業の投資支出が減少するからです)。1970年代と1980年代の石油価格高騰ショックの後には、すぐに景気後退が続きました。ここ1週間の金利上昇(インフレ懸念)と株式市場および信用スプレッドの変動拡大(成長懸念)は、まさにこのシナリオに合致していると言えるでしょう。
こうした市場の反応がどれくらい続くか、そして今後の市場リターンがどうなるかは、紛争の長期化とエネルギー市場がどれだけ早く均衡を取り戻せるかに大きく左右されるとみています。
プラス面
今後の見通しに明るい兆しはあるのでしょうか?石油とその派生品(ガスや湾岸地域で生産・輸出されるその他の製品も含む)は依然として世界経済にとって不可欠ですが、エネルギー集約度は低下しています。国際エネルギー機関(IEA)の推計によると、世界経済は2000年と比較して、エネルギー単位当たりのGDPが36%増加しています2。
非化石燃料エネルギー源への投資を通じて炭素排出実質ゼロを目指す取り組みは、化石燃料への依存度を低減するのに役立っています。さらに、石油の実質価格も下落しています(コア消費者物価指数で調整した場合、石油価格(米ドル建て)は2022年3月と比較して実質で約25%低下しています)。
一般的に、先進国では、エネルギーが消費者物価指数に占める割合は、30~40年前と比べて小さくなっています。米国では、40年前はエネルギーが消費者物価指数に占める割合は約9%でしたが、現在は約6%にまで減少しています。もちろん、短期的には価格ショックが問題となりますが、私(筆者)が1970年代の子供時代に経験したようなエネルギー配給制は、できれば避けられるシナリオであってほしいものです。
先進国経済がこの期間に経験してきたインフレ環境が全般的に改善していることは、パンデミック後の2021年から2022年にかけてインフレ率が急上昇したからといって、軽視されるべきではないでしょう。
私たちはこの危機を乗り越え、再び2%のインフレ率を視野に入れることができる可能性は十分にあるとみています。もちろん、今年中に達成できるとは限りませんが、長期的なインフレ期待という観点からはそう言えるでしょう。そうすることで、債券利回りの上昇を抑制し、リスク資産へのダメージを最小限に抑えることができるとみています。
- https://www.iea.org/reports/economic-growth
インフレは1970年代の水準ほどではない
原油先物価格は、市場では紛争が比較的早期に終結するとみていることを示唆しています。G7諸国が今後数日のうちに戦略石油備蓄の放出を円滑に調整できれば、エネルギー市場にいくらかの安心感をもたらす可能性があるでしょう。その場合、世界的なインフレへの影響は限定的となるとみています。インフレ・スワップ曲線もその見通しを反映しています。一方、もしインフレ・スワップ市場が恒常的に高いインフレ率を織り込んでいるとしたら、特に生活費に対する社会的な懸念を考えると、より懸念すべき事態となるでしょう。
原油価格高騰に起因してインフレ率が持続的に上昇するためには、経済全体における行動様式の変化、すなわち賃金上昇率の加速や、主要財・サービス価格のより速いペースでの上昇が必要となります。しかし、市場はそれをまだ織り込んでいません。
債券市場では、中央銀行がどのように対応するかが大きく影響します。市場は本質的に、中央銀行の追加の金融緩和を終わったものとみています。つまり、短期金利の上昇に伴い、イールドカーブ(金利曲線)は平坦化しています。しかし、イールドカーブ全体の利回り水準は、過去1年間維持されてきた範囲内にとどまっています。
債券市場は概してこれまでのところあまり価格が下落していません(2月の株式市場におけるソフトウェアセクター下落の方が、資産保有者にとってははるかに大きな打撃でした)。インフレ率が現在の市場の織り込み水準をはるかに上回らない限り、中央銀行がこのような状況下で利上げを実施することは難しいとみています。重要なことは、そしてこれはリスク資産にとって重要な点ですが、金利の変動幅は再び拡大することが予想されるということです。
クレジットに投資機会
市場の緊張が早期に解消されれば、いくつかの投資機会の可能性が現れてくるでしょう。社債などのクレジット市場は概して堅調に推移しています。スプレッドは拡大しているものの、米国、ユーロ圏の投資適格債およびハイイールド債市場では、昨年10~12月期に記録した水準にとどまっています。利回りは上昇して昨年上半期の水準にまで戻っています。3月第2週は米国社債の発行額が過去最高を記録した一方、投資家は強い需要を示しました。プライベートクレジット市場で発生した問題に関する報道にもかかわらず、質の高い投資適格債に対する需要が減退する兆候は見られません。
財務レバレッジの水準や中堅企業の割合が高い観点で、プライベートクレジット市場に近いハイイールド債市場では、受給要因がプラスに働いています。投資家へのクーポン支払額が新規発行額を上回る水準に達しているため、受取クーポンによる再投資が市場を支えています。
しかし、金利は上昇傾向にあるため、短期的には債券市場のリターンは低下するでしょう。金利変動の影響を受けにくく、スプレッドが広がっており、インフレヘッジ機能も備えた資産は、短期的には一定の防御策となる可能性があるとみています。
石油は再び流通する必要がある
このような時期に市場コメントを書くことは、運命に身を任せるようなものと感じています。今後数日から数週間で事態がどのように展開するかは誰にも分かりません。しかし、その影響については推察できると考えます。
ごく単純に言えば、世界経済の地理的な要衝である、比較的小規模ながらも非常に重要な地点が、混乱を引き起こしています。つまり、米軍の目標の一つであるようですが、ホルムズ海峡の安全な航行が確保されれば、市場の緊張は緩和されるでしょう。
しかし、もっと広い視点で見ると、投資家は2つのことを考える必要があると考えます。
まず、短期的には、紛争が数週間続き、世界の石油や天然ガスの供給量が継続的に減少した場合、市場への影響はどうなるのかという点です。
第二に、より哲学的な問いとして、今回の紛争が地政学的リスクの恒常的な増大を示す事例となるかどうかという点です。つまり、希少資源や、貿易ルートと同盟関係の管理、そしてAI開発に伴うエネルギー需要の急増をめぐる新たな競争世界は、インフレリスクプレミアムと金利変動の持続的な上昇をもたらすのだろうかという点です。
国際関係の摩擦、政治的目的達成のための軍事行動の増加、保護主義的な貿易政策の強化、そして資本フローの変化は、いずれもインフレ率の上昇と経済成長率の低下につながる可能性があるとみています。
これは1970年代に戻ることを意味するものではありませんが、投資家は、地政学的リスクが資産クラス、流動性の属性、国毎の関わりといった観点から長期的な資産配分にどのような影響を及ぼすのか、検討する必要があるでしょう。
パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ICEデータサービス、ブルームバーグ、BNPパリバ・アセットマネジメント。特に記載がない限り、2026年3月12日現在。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。また、記載内容は、2026年3月12日現在の資本市場を説明したものであり、特定の金融商品への勧誘や推奨を意図したものではありません。
(オリジナル記事は3月13日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
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