
債券市場において、分かっていることと分かっていないこと
- 2025年7月18日 (3 分で読めます)
主なポイント
過去数年間、債券市場のリターンは良好だったため、投資家が2022年の厳しい環境から徐々に回復することの助けになりました。しかし、その回復は一直線に進んだものではありませんでした。実際、市場は主に金利ボラティリティ(変動性)が上昇することによる高い構造的ボラティリティの局面に突入しています。
このボラティリティは、各国の主要な中央銀行が金融政策についてこれまでの歴史で最大の転換を実施して以来直面してきた不確実性の高まりを反映しています。市場もこのボラティリティを予想していませんでした。2025年の初めの見通しでは、市場にはいくつかの確実性が現れてくるように思えました。つまり、米国例外主義は、トランプ政権の規制緩和と減税の計画によって強化されようとしているとみられており、また、欧州については、経済成長は低迷を続け世界的な貿易戦争によって抑制される可能性があり、インフレは懸念材料にはならないと予想されていました。
これらの確実性はすべて消え去りました。その代わりに、市場はこれまでにないほど多くの追い風に直面しているようです。あまりにも多くの追い風があるため、構造的ボラティリティが高いにもかかわらず、市場は凍りついているようになっており、限られた範囲で推移し、中期的に金利の正しい方向を評価できない状態になっております。
物事が横ばいの動きになるとき、投資家として、分かっていることと分かっていないを見直すことには通常では意味があると考えます。
分かっていること
- 歴史的にみると、利回りは良好な水準にあり、ドイツ10年国債利回りは2.60%近くにあり、米10年国債の利回りは4.30%です。(出所:ブルムバーグ、2025年7月3日現在)
- 債券市場全体の利回りと株式市場の配当利回りの差は、かつてないほど縮小しています。
- イールドカーブ(利回り曲線)はスティープ化(急勾配化)し、債券市場が短期資金に対して競争力を持つようになっています。
- 最近のリスク回避の局面では、リスク資産の損失に対する有効なヘッジとしてデュレーションのとり方が重視されるようになりました。
- クレジットスプレッド(発行体の信用格差による利回りの差)はタイト化(縮小)しており、投資適格(IG)社債市場およびハイイールド(HY)社債市場の過去10年の最低水準に近づいています。HYとIGの債券市場の利回りの差も最小水準になっており、現在の環境で追加のリスクを取ることに対して投資家が得られるリターンがあまり良くないことを反映しています。それでも、絶対的な利回り水準はこの資産クラスへの需要を引き続き喚起しています。
上記のポイントはすべて、この資産クラスに対してかなり支援材料になるとみていますが、依然として大きな不確実性があります。
分かっていないこと
地政学
中東の緊張が高まっています。イランとイスラエルの間で最近停戦が発表されたにもかかわらず、過去この地域の停戦について、本当に守られたものは半分に過ぎません。一方、ロシアとウクライナの戦争は続いており、米国と欧州の同盟国とを分断する可能性があります。この分断は、防衛支出を加速させる必要が生じ、財政見通しや供給への重荷が増す可能性があり、その結果、金利が上昇することになると考えます。
これに加えて、原油価格が上昇すると、新たなインフレ圧力が加わり金利を押し上げる可能性があります。
貿易関税
関税貿易戦争は続いており、各国の交渉の行方を見ると、金利や成長の観点から何を意味するのかを確実に予測することが難しくなっています。一方で、交渉が成立すればリスク資産を支え、また、成長拡大とインフレ加速の見通しから金利が上昇する可能性があるとみています。しかし逆に、期待される成長が下方修正されると、金利が低下し、クレジットスプレッドが拡大することもあります。また、たとえ交渉が妥結しても、それが尊重されるかどうかはまだ分かりません。
世界の非ドル化
米国は、信頼できる同盟国としての地位を失ったようです。このことは、米国が今後経済的および地政学的に建設的なパートナーシップを築くことができるか否かについて、悪影響を及ぼす可能性があります。また、予防的な手段として、米国から投資を引き揚げる範囲が広がり、米国金利に対してユーロ金利を強める要因となるかもしれません。
財政見通し
欧米は共に、防衛支出の増加や減税により、財政赤字がさらに増加することが見込まれます。この赤字拡大が市場に十分に織り込まれているとしても、依然として金利を押し上げる要因になる可能性があるとみています。
中央銀行の金融政策
欧州中央銀行(ECB)と米連邦準備制度理事会(FRB)は、現在の経済データを考慮すると、金利に関して現在の水準に満足しているようです。しかし、両中央銀行はこの非常に不確実な環境において行動する準備も整えています。雇用の悪化はFRBの行動を引き起こす可能性があり、また同様に、インフレの急上昇はフォワードガイダンス(中央銀行が金融政策の先行きを前もって示すこと)に影響を及ぼす可能性があるとみています。
これら地政学的リスク、貿易戦争、財政赤字拡大の結果はすべて、各中央銀行に行動を促す可能性があるとみています。
一方、トランプ大統領が任期満了前にFRB議長交代を発表すれば、信頼に対する別の課題が生まれる可能性があります。彼はパウエルFRB議長やFRBを批判している一方で、最高裁判所が早期の交代を防いでいるものの、トランプ大統領の将来的な関与を軽視すべきではないと考えます。たとえこれが現在のFRBの金融政策に影響を与えないとしても、市場にハト派的な傾斜を加え、インフレ期待を高める可能性があり、その結果、イールドカーブがさらにスティープ化することが考えられます。
市場が知っていることのほとんどは、債券市場が歴史的な観点からも相対的な観点からも良好な水準にあるため、市場にとって安心材料になっています。しかしそれでも、クレジットスプレッドのタイトな水準と高い不確実性が組み合わさると、分散投資のアプローチが求められるとみています。さらに、不確実性の理由はほとんど同じ源(米国)から生じるため、米国を信頼することがますますできなくなってきています。これにより、ユーロの債券市場が特に重要になってきています。
多くの分かっていない要素はそれぞれに異なる影響を及ぼす可能性があり、評価が難しくなります。しかし、長期的な投資家として、これらの短期的は分からない要素を、今後明らかになるにつれて捉えるべき潜在的な投資機会と見なすことができますと考えます。とはいえ、これは一直線には進まず、債券投資戦略において、デュレーションや配分に関して敏捷性と柔軟性を示すことが有効になるとみています。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。
(オリジナル記事は7月4日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
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