
分散投資の再考
主なポイント
市場はなぜこれほど不安定なのか
Chris Iggo、アクサIM資産運用研究所所長及びアクサIMコアCIO
新型コロナウイルス、インフレ、金融引き締めなど、ここ数年にわたり不確実性を煽る出来事が多数ありました。 最近では、米国とトランプ政権の経済政策が不確実性の原因となっています。その主要政策は貿易関税です。現在、米国への輸入品の実効関税率は約15%です。米国のGDPうち、13%を輸入が占めていることを考えると、この関税は米国経済に大きな影響を与える可能性があると考えます。実際すでにこの影響を示す証拠があります。つまり、インフレ率は上昇し、労働市場は軟化しつつありますが、これは事実上の増税から予想される結果です。
まだ初期段階ですが、米国と世界の経済動向が、想定されていた状態から乖離する可能性もあるとみています。このため、投資家が慎重なのには理由があります。ところが、市場はそれほど懸念していないように思えます。株式市場は引き続き最高値を更新し、債券市場のパフォーマンスも良好です。
金利市場への影響
長年にわたる量的緩和と中央銀行による世界市場への介入の後、過去数年間、政策金利が正常化のプロセスを経てきました。その第一の影響として、国債利回りのフェアーバリュー(適正価値)はどこかを考えなければならない局面にあるとみています。過去の利回り水準を見れば、現在の水準はおそらく適正な範囲にあります。もちろん、米国債利回りは4%~4.8%の範囲内で取引されていますが、利回りはその範囲で変動する可能性があるとみています。利回りはこの範囲にとどまってはいるものの、動きが多くなり、ボラティリティ(変動)が生じています。
第二の影響は金融政策と各中央銀行の動向です。欧州中央銀行(ECB)は先取りして動いており、利下げサイクルをほぼ終えたように見えます。一方で、米連邦準備制度理事会(FRB)にはまだ利下げ継続の余地があるとみています。したがって、イールドカーブ(金利曲線)のスティープ化(急勾配化)の傾向は今後も続くと考えます。
最後に、財政政策の影響について考えるべきとみています。フランスと英国は両国ともに、政府債務と財政赤字が債券市場に影響を及ぼしている国の例です。その結果、イールドカーブの超長期部分においてリスクプレミアム(リスクに対して求められる超過収益)が上昇しました。この財政問題は世界的に見られるものです。
クレジット市場の好パフォーマンスは今後も続くか
クレジットスプレッド(信用格差による利回り差)は非常に縮小している環境ですが、ファンダメンタルズを見れば、懸念するような要素はほとんどないとみています。企業は健全な財務状態にあり、高水準のキャッシュ、堅調な企業収益など良好な状況にあります。これは、企業が負債を大きな問題なく管理できると考えられることを示します。企業の財務状態は政府の財政状態よりも良い状況と言えるかも知れません。このことは、クレジットスプレッドのタイトな状況が続いていることを裏付けています。
クレジット市場状況を見るもうひとつの方法は、社債市場全体の利回りを見ることです。社債市場の利回りは相対的に良好で、インフレ率を上回っています。この利回り水準を考えると、デフォルトの可能性が相対的に低い投資適格債市場では、国債と比較して良好なリターンを得られる可能性を期待できると同時に、異なるセクター、発行体、期間を通じてキャッシュフローの分散化も実現できます。また、格付けやセクター、国別の配分によって信用リスクを分散することも可能です。このような理由から、アクサIMグループ はクレジット投資戦略に前向きな姿勢を維持しています。
債券における下振れリスクへの対処法
Johann Plé(シニア・ポートフォリオ・マネージャー)、Rui Li(ポートフォリオ・マネジャー)
債券ポートフォリオが負うボラティリティの80%以上をデュレーションが占める現在の環境では、デュレーションはもはや単なる戦略的資産配分の選択肢の一つではありません。その代わりに、ポートフォリオのリスク調整後リターン属性を管理するための戦術的手段となっています。
デュレーションを効果的に活用するには、柔軟性が必要とアクサIMグループは考えます。金利のボラティリティが高いものの、柔軟性があれば、2022年のような金利上昇時や金利が高止まりする環境で、ドローダウン(保有資産の下落率)リスクを軽減する機会をつかむことができるとみています。こうした最近の状況では、2つの手段の利点を活かせることが重要と考えます。
ユーロ債券戦略であれ、グローバルなグリーンボンド戦略であれ、様々にある柔軟な投資アプローチに目を向けると、デュレーションに対する柔軟なアプローチが投資機会を生み出すのに役立ちます。ボラティリティはどちらのタイプの戦略にとっても好機であり、適切な手段を使えば、分散投資を通じてリスク・リターン属性を向上させることが可能とみています。デュレーション管理についての議論では、それが短期的な市場価格修正と中・長期的な視点との乖離であり、段階的に行うものであることを覚えておくことが重要と考えます。
長期的な視点は、分散投資ポートフォリオの重要な要素です。クレジットスプレッドを見ると、最近大きく縮小していますが、25年という長期間にわたると、その後の数年にスプレッドが拡大する確率がほぼ 80%であることが判明しました1. This is when a diversified portfolio* tends to be more resilient, outperforming credit 74% of the time.1
現在の市場環境を踏まえると、スプレッドが縮小する余地が限定的である一方、リスクは非対称に大きくなる可能性があるため、慎重になることが重要だと考えます。したがって、柔軟性とデュレーション管理を組み合わせることが、現在の市場環境において優れた長期リスク調整後リターンの達成を目指す際の鍵になると考えます。
分散投資の決定的な役割
分散投資戦略のポートフォリオは分散していないポートフォリオと比べシャープレシオ2が向上し、かつドローダウンが小さくなるため、より良好なリスク・リターン属性を持つ傾向がありますが、特にクレジットスプレッドがタイトなままの現在、これはまだ当てはまると考えます。このため、アクサIMグループは引き続きクレジットをあまり懸念していない一方、一層の分散投資も検討しています。これは、クレジット市場だけに焦点を当て続けると、追加リスクに見合うだけのリターンが得られない可能性があると考えられるからです。そこで分散の対象を、ソブリンや準ソブリン市場に拡大する一方、短期の劣後債市場や新興国市場からのキャリー(債券市場環境に変化がない場合の一定期間に得られるリターン)にも着目しています。柔軟な戦略におけるもうひとつの分散投資対象はインフレ連動債市場ですが、その理由はこれが下振れリスクの緩和をもたらすと考えられることです。インフレリスクをヘッジする手段として利用できるだけでなく、社債に伴う信用リスクを伴うことなく、キャリーを向上する可能性もあると考えています。
グローバル債券戦略の別の投資対象として、グリーンボンド市場があります。米国政府はグリーンファイナンスに対し反発しているかも知れませんが、企業にはまだ意欲があります。また、再生可能エネルギーへの資金供給は増加しており、このような状況はさらに広がっています。テクノロジーの利用拡大、建物や交通システムの電化の進展により、電力需要が増加していることは、再生可能エネルギーに対する需要も増加する可能性が高いことを意味します。グリーンボンドの発行体は投資家に透明性の高い水準の報告を提供する一方で、プロジェクト開発者はグリーンボンドを通じて安定したコストで資金調達できるため、こうしたプロジェクトにとって資金調達の重要な手段となるとみています。
グリーンボンド市場は欧州を筆頭に世界規模で成長し続ける一方、米国やその他の国もこの分野への投資を続けると予想しています。このことは、サステナビリティボンド資産クラスの約15%~20%が新興国市場にあり、地理的にも分散されたユニバースを提供しているという事実からもすでに見て取れます。米国の政策リスクが大きい環境では、投資対象を米国外へ拡げることが重要と考えます。
債券市場は今日、良好な投資状況にあるとみています。利回りが相対的に高い一方、経済と政治の不確実性が高まっているため、債券投資戦略に目を向けるには良い時期とみています。債券投資戦略はリスクがより高い資産に対する分散化手段を提供できると考えます。しかし市場環境はまだ安定には程遠いため、柔軟なアプローチが投資家にとって有益であると考えます。
パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ICEデータサービス、ブルームバーグ、アクサIMグループ。特に記載がない限り、2025年9月24日現在。
上記戦略は、一般的な投資概念や手法を示すものであり特定されるものではありません。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。
(オリジナル記事は9月30日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
- 出所:ICE、AXA IM 2025年6月30日現在。バックテストは1998年12月31日から2025年6月30日までの期間、週次データを用いて実施。スプレッドが現在の水準に近似(最大差が20ベーシスポイント)していた過去の日付を検討する。ボックスプロットでは、数値データを四分位数に分け、第1四分位数と第3四分位数の間にボックスを描き、第2四分位数に沿って中央値を示す十字を描く。* ソブリンおよび準ソブリン45%、クレジット45%、ユーロ建て新興国市場債券10%に指定した分散ポートフォリオ。
- 出所:ICE、AXA IM 2025年6月30日現在。バックテストは1998年12月31日から2025年6月30日までの期間、週次データを用いて実施。スプレッドが現在の水準に近似(最大差が20ベーシスポイント)していた過去の日付を検討する。ボックスプロットでは、数値データを四分位数に分け、第1四分位数と第3四分位数の間にボックスを描き、第2四分位数に沿って中央値を示す十字を描く。* ソブリンおよび準ソブリン45%、クレジット45%、ユーロ建て新興国市場債券10%に指定した分散ポートフォリオ。
- リスクのない投資と比較して、リスク量を調整した後の投資のパフォーマンスを示す指標。 シャープレシオが高いほど、リスクと比較してリターンが高くなります。
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