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Investment Institute
マーケット見通し

株式戦略と社債戦略に投資機会が継続


投資家はここ数年、キャッシュを選好し投資を手控える傾向がありました。しかし、キャッシュが好リターンを提供する日々は終わりに近いと見ています。利下げが再び議題に上がるようになりました。現預金の次に低リスクとされる短期デュレーション債投資などを始め、社債戦略はキャッシュよりも投資妙味があると見ています。現状(執筆時)欧米市場は順調に動いているように思われます。利上げや戦争のリスクは後退しており、米国経済はソフト・ランディング(軟着陸)するシナリオに向かっていると思います。辛抱強く、投資を続けることが肝要と考えています。

ショートカバーの動き 

リスク性資産は4月に調整したものの、5月には再び価格が上昇しています。長期デュレーションの債券にとって5月は好調の月となりつつあり、また、株式市場では、各地で高値を更新する動きも見られます。地政学的なリスクや金融引き締めのリスクは縮小してきたと見ています。景気の上向きを示すデータや中央銀行関係者の発言によって、年内に利下げを行う可能性が再び高まってきたとの見方も出ています。いわゆるミーム株式(SNSなどで注目が集まり、短期間に株価が急上昇する銘柄)売買も復活しています。市場では、米国のデイトレーダーが、大幅に空売りされている株式を売買の注目銘柄として、ショートカバー(空売りなどの売りポジションを買い戻すこと)による株価上昇を誘発し、大幅な値上がり益を得ようとする動きが見られます。例えば、ナスダック市場に上場している電気自動車メーカー、ファラデー・フューチャー・インテリジェント・エレクトロニックの株価は先週2日間で1,300%上昇しました。この銘柄は市場でカラ売りが大きく進んでいた銘柄の一つでした。ミーム株式や長期デュレーションなどリスクが比較的高い取引が注目を集めていると思われます。


利下げ予想が再浮上 

5月の好調な市場パフォーマンスは、最近の金利見通しの変化によるところが大きいと思います。米国での利上げ懸念は消え、また、米国経済のソフト・ランディング・シナリオはこれまで通り進んでいるように思われます。インフレ率は前年同月比で見ると、総合とコアともに4月には小幅ながら低下しています。小売売上は軟調を示し、雇用統計にもその前の数カ月と比べて鈍化が見られ、4月の失業率は3月から小幅上昇し3.9%となりました(昨年4月は3.4%でした)。ブルームバーグTVでは、各消費者信頼感指数の低迷の解説に多くの時間が割かれています(議論に長い時間が費やされたとしても、その経済統計の有用性が必ずしも高いとは限りません)。

欧州では、インフレ状況も市場にとって追い風となっています。4月のインフレ率は多くの国で安定ないし低下を示しました。英国では、過去2年間と比べてエネルギー価格が下落しているために、市場では、4月の消費者物価は3月よりも低下すると予想されています。債券市場では、利下げ予想が再び強まってきたことを好感していると思われます。


良好な6月

中央銀行のメンバーの発言も参考になります。米国の連邦準備銀行の当局者は利上げの必要性を考えておらず、欧州中央銀行(ECB)の政策担当者は、市場が6月の利下げを予想するように誘導していると見ています。イングランド銀行 (BoE)は両行と比べるとあまり明確に述べていませんが、アンドリュー・ベイリーBoE総裁は最近の発言で、BoEも6月に利下げを開始することを示唆しています。市場では、米国連邦準備制度理事会(FRB)は年内2回の利下げ、ECBとBoEでは3回程度の利下げが見込まれています。

この適温相場見通しは市場にとってプラスとなっています。つまり、金利が緩和される方向にあり、経済は穏やかながら成長を続け、インフレは全般的に軟化方向に動いています。筆者としては、市場環境がここ数週間のように常に穏やかであるとは思えないものの、今のところ(執筆時)、社債戦略や株式戦略の利益となるリスク性資産の価格上昇は続くと見ています。

利回りがリターンと同じになる可能性 

債券投資家にとって、現在の見通しでは、ハイイールド債券を含めて、社債戦略の投資機会が広がっていると見ています。クレジット・スプレッド(発行体の信用力の差に基づく利回りの差)は近年で最もタイトな(縮小した)水準に近づいていますが、社債戦略全体の利回りは投資の魅力がある水準と思われます。現在の米国の投資適格債券市場のスプレッドは2021年中旬の水準とほぼ同じです。その当時を振り返ると、同市場の利回りは1.9%にすぎず、執筆時点の5.4%よりも低い水準でした。この状況はユーロ圏や英国でも類似しています。筆者が以前から度々指摘していることですが、ある長さのデュレーションを持つ社債ポートフォリオの投資開始当初の利回りは、ポートフォリオをその長さの年数近く持ち続けると、合計リターンの年率換算値と非常に近くなる傾向があります。

イールド・カーブ(金利曲線)は、ゆっくりと変化

これからデュレーションを選択することは興味深いものがあります。米国の政策金利は頂点にあり、現状では追加利上げはないと思われます。つまり、長期金利(10年国債利回り)は、今年に入って推移している水準を大きく超えて上昇する可能性はないと考えられます。このように長期デュレーションを選択しても、以前ほどにはリスクは大きくないと見ています。この状況は、米国10年国債が5月に入って短期間に比較的高いリターンを上げたことにも見て取れます。

しかし一方で、長期債の利回りが大きく低下するとも見ていません。というのもインフレ率は依然として中央銀行の目標水準を上回っており、金融政策の緩和はゆっくりと行われると思われるからです。イールド・カーブは依然として長短が逆転した(短期が高く、長期が低い)ままであり、フラット化、ひいては順カーブに向かってはいるものの、この形状の変化は短期金利が低下することによって引き起こされると見ています。純粋に金利だけを見ると、短期デュレーション戦略は金利上昇と低下の両局面で継続的に長期デュレーション戦略をアウトパフォームしてきました。米国、ドイツ、英国の各市場において、1~3年の国債市場と7~10年の国債市場の相対リターンを比較しました。過去10年間で見ると、この短期の市場は長期の市場よりも良好なパフォーマンスとなりました。もし、現在の逆イールド・カーブから、長期の市場利回りがあまり変動しない前提で、短期の市場利回りが長期の市場利回りと同程度にまで低下した場合、短期の市場リターンは再び長期の市場リターンを上回ると試算できます。

社債戦略の投資機会

同じように社債市場を見ると、やや異なる状況が見えてきます。過去10年間米国では、7~10年の社債市場は、1~3年の社債市場をアウトパフォームしています。米国債市場と異なり、クレジット・カーブ(信用力曲線)はこの10年の期間ほぼ全般にわたり順カーブを描いていました。従って、長期の社債市場は、短期の社債市場よりも高めの利回り(キャリー)によって恩恵を受けていました。一方、ユーロ圏と英国では、短期の社債市場は、過去3年と過去5年の期間では長期の社債市場よりも高いパフォーマンスとなりましたが、10年間ではアウトパフォームせず、また直近の12か月でもアウトパフォームしませんでした。

債券かキャッシュか

短期デュレーションの社債戦略の有効性は、キャッシュと比較すると明らかになります。キャッシュ金利は頂点に達し、来年は低下すると見ています。利下げが行われると、一般的にはキャッシュのリターンは低下する一方で、債券価格は上昇します。従って、短期デュレーション社債戦略は、現在翌日物キャッシュ金利と同じ利回りがあれば利益を得ることができ、さらに利下げが行われると値上がり益や、場合によっては、穏やかながら信用スプレッドの縮小によって、恩恵を得られる可能性があります。

市場のボラティリティは小さく、流動性は潤沢であり、売却する投資家は少ない

依然として多くのキャッシュを保有する投資家は、株式市場の力強い上昇に乗り遅れ、また、信用スプレッドの縮小を目にすることになり、不満を抱いていたものと思われます。同時に、投資家がこれから投資を開始し、中長期的に投資を継続するとしても、それには納得できる市場循環的な理由があると考えています。つまり、もう一度金利ショックが起きる可能性は低いと見ています。また、先進国のマクロ経済環境は良好と思われます。さらに、商品市況は落ち着いています。一方、株式市場は、高値を更新する市場もありますが、これまでの3年間ではバリュエーションは予測PER(一株当たりの株価収益率)で見ると平均水準付近で推移しています。出来すぎた状況かもしれませんが、VIX指数は過去5カ月で最低水準にあり、クロスオーバー社債(投資適格と非投資適格の間に位置する銘柄)のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS、破綻リスクを売買する金融派生商品)も2022年の年初以来最低の水準にあることから分かるように、本稿執筆時においては市場ボラティリティが低いため、リスクを比較的安価にヘッジできます。以上のことから、今年は、欧米の資本市場に投資を行う投資家にとって、比較的良好なリターンを獲得できる一年になると予想します。

 

過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。

企業への参照は例証のみを目的としており、個別銘柄への投資を推奨するものではありません。

パフォーマンスや市場のデータの出所: レフィニティブ・データストリーム、ブルームバーグ、特に言及の無い限り2024年5月16日現在。

(オリジナル記事は5月17日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

 

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