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視点:CIO

50bpからスタート


議論の中心となっているソフトランディング(経済の軟着陸)シナリオはますます現実味を帯びてきており、市場はそれを好感していると思われます。米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を25ベーシスポイント(bp)ではなく50 bp引き下げるという決断を下しました。この動きにより、米国の株式市場は上昇し、一部では過去最高値を更新する動きが見られました。米債券市場は引き続き来年の金利低下を織り込んだと思われる水準になっています。7~9月期ほどの好リターンは年末までにふたたび得られないかもしれませんが、株式市場は2024年の残りの期間に向けて好調な動きになる可能性があると見ています。歴史的に見て、株式は例年では10~12月期に比較的好調な結果を出すことが多いのですが、過去の実績が将来のリターンを保証するものではないこと、そして今年は米大統領選挙に関する不確実性もあることを考慮する必要があります。一方で、金利が低下に向かい、インフレが鎮静化しつつあり、経済成長は依然としてプラスの状況にあります。こうした中で、何が原因でマイナス方向に傾く可能性があるでしょうか?


相対的に良好

FRBは9月18日に50bpの利下げという正当と思われる決定を下したため、政策金利が2025年に中立金利に向かうとする市場の中期見通しを混乱させることはありませんでした。このアプローチにより、債券のイールドカーブ(利回り曲線)は全般的に低下しましたが、2022年以前よりも高い水準を維持できています。これは債券投資家から歓迎される状況だと思われます。債券利回りは依然として相対的に魅力のある水準にあり、今後数か月間キャッシュに比べ良好なパフォーマンスを期待できると見ています。ようやく、インフレが鎮静化しつつあり、借入コストが低下し始めることによって、消費者や企業にとって環境がより安定した状況になっていくと考えています。

効率的な市場

市場の価格には、すべての起こりうる結果を加重した確率を反映すべきと考えています。一方で、市場には異なる見解や予想と異なる経済データが常に存在していると見ています。もし投資家がそれぞれインフレや経済成長について異なる見通しを持ち、それによって金利の進路も異なると考えるとすれば、市場はそれぞれの投資家にそうした見解を表明するための多くの機会を提供すると考えています。例えば、FRBがインフレについて過度に楽観的であり、最終的に市場が織り込んでいるほどには利下げをできなくなると考える人たちにとっては、市場が最終的に比較的高い金利を織り込むようになるという期待があります。市場のセンチメントが急激に変わる確率や、予期せぬ経済データの影響、そして今後の米国大統領選挙の影響の確率はわかりません。もし市場が合理的であるなら、現在の価格設定が最も正確な見通しであると考えられます。それに逆らうことは、リスクを負うことになるかもしれません。

債券市場にとって好材料

市場はFRBの利下げを好感しました。発表後に利回りはほとんど変動しませんでしたが、債券市場は利下げ決定までに好調なパフォーマンスを示していました。米国債のイールドカーブは全般的に、9月初めと比較して水準が低くなっています。米の政策金利であるFF金利(フェデラル・ファンド・レート)について市場が織り込んでいる年末の水準も利下げ発表後に20bp低くなっています。海外の債券利回りも低下しています。株式市場も好感した動きになりました。これは当然の反応と見ています。つまり、金融政策の緩和はインフレへの懸念が弱まっていることを反映しており、金利の低下によって、著しい景気減速の可能性を小さくすると考えられるからです。米国の住宅ローン市場の借入コストが下がっています。Bankrate.comによると、全国平均の30年固定金利住宅ローンの金利は、昨年10月の約8%のピークから直近(9月15日)では約6.5%に下がりました。さらにローン金利が低下すると、借換えや住宅購入が促進されると思われます。これは消費支出にとってプラスに働くと見ています。そして、先週のコメントを繰り返しますが、企業の調達コストも下がっています。

株式市場にとってプラス

成長株投資戦略の場合、金利が3%に向かって低下している状況では、6%に達する可能性があったときよりも好パフォーマンスになる可能性があると考えています。特に、インフレが新たに構造的に高い水準に固定される可能性があったときに比べて、執筆時現在、インフレが目標に向けて低下しつつある状況においては、なおさら好パフォーマンスの可能性があると考えられます。アナリストが自信を持って1株当たりの利益(EPS)の予想値を上方修正している現状は、利上げによってリセッション(景気後退)懸念が強まりEPS予測が下方修正されていた2022年のような状況と比較すれば、株式投資戦略にとって環境は改善していると見ることができます。市場では、楽観的見方が強まり、新たな高値をつける市場も現れています。人工知能(AI)に対する熱狂感は薄れたかもしれませんが、AIによる革新的な動きは進んでいるため、7~9月期や2025年におけるテクノロジー企業の収益に市場予想を上回る上方修正がなされる可能性を排除すべきではないと考えています。

安定した枠組み

FRBに逆らうべきではないと考えています。これは非常に重要であり、少なくとも筆者の意見では、FRBは正しい判断をしていると見ています。FRBは市場を、グローバル金融危機後に必要だった水準とは異なる均衡金利の水準へと導いていると思われます。FRBがインフレをコントロールできなくなるという見方は誤りでした。成長をコントロールできなくなるという見方も、おそらく誤ったものになると見ています。特に市場環境が不安定な時期にはFRBの重要性を認識することが重要と考えています。今後、市場環境が不安定になる可能性があります。その不安定さは、おそらく米国大統領選挙とその余波、および継続的な地政学的出来事によって引き起こされるかもしれません。しかし、長期的な投資家にとって、FRBという強固な金融の枠組みがあることは重要であると思います。大きくは変わらない長期目標(低インフレと低失業)は、世界の金利の進路を決定するにあたって、長期的に有効なロードマップを提供すると見ています。

強力なトレンド

筆者は、テクノロジーに逆らわないことも提案したいと思います。過去50年間で世界は根本的に変わり、デジタル化が大きな役割を果たしてきました。より大きなコンピューティングパワーやAIが広がり、生産性が向上を続けるにつれて、世界の変化も続いていくと見ています。また、緑の革命にも逆らうべきではないと考えます。気候変動に関するさまざまな意見とは関係なく、財務的、環境的、社会的コストが化石燃料よりも低い電力源で経済活動を電化できるようになることは、全般的に投資にとってプラスの影響があると思われます。つまり、コストが低下し、分散化が進み、政治色のあるエネルギー産業複合体への依存が薄らぐことによって、投資が拡大し、多様な貿易形態が生まれ、紛争が減少し、エネルギー不足の国や地域にとってより大きな機会が生まれてくると見ています。

楽観視か錯覚か

現在人々は、安定化が進むマクロ経済環境、清潔で低コストのエネルギーの豊富さ、そして何十億人もの人々の生活水準向上に貢献できるテクノロジーの可能性という、黄金時代を迎えようとしていると見ています。これには経済的な合理性があるため、これらの要因は長期的な投資機会を提供すると考えています。もちろん、うまくいかない場合もあると思います。第三次世界大戦や環境災害、人口の時限爆弾(出生率の低下と高齢化が同時に進む現象)、そして多くの国で社会の結束を損なっている政治的分裂など、様々なまだ目に見えていないリスクがあると思います。これらのリスクに対する懸念が時折市場に影響を与えることがあります。しかし、こうしたリスクが市場リターンを損なう確率がどれぐらいあるのか計算することは簡単ではないと思われます。これらのリスクのいくつかは、11月5日の米国大統領選後に具体化する可能性がありますが、その結果はまだ明確ではありません。従って、それらが現れたときに対処すべきだと考えます。筆者が好きな言葉を借りれば、「自分ではコントロールできないことについて心配しない」ほうが良いと見ています。

ヘッジも選択肢

現時点で市場が織り込んでいる金利見通しを根本的に変えるには、多くの要因が必要と考えています。変化が起こりうる主な理由は、インフレが、金融政策の(今のところ)穏やかな緩和に迅速に反応する可能性があるためです。これは市場やほとんどの経済予測にはまだ織り込まれていません。その結果、インフレへのヘッジコストは安価になっています。現状、米国の5年物インフレスワップは2.3%です。このスワップは注目に値する市場であり、米国の選挙の結果、インフレを引き起こす政策の可能性を市場が織り込む場合には、スワップ金利が上昇し、金利見通しも上昇すると考えています。そうしたインフレ政策の可能性が小さい場合、金融市場の強気相場は来年にもしっかりと続く可能性があると見ています。

パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ブルームバーグ、アクサIM。特に記載がない限り、2024年9月19日現在

 

企業への参照は例証のみを目的としており、個別銘柄への投資を推奨するものではありません。

過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。

(オリジナル記事は9月20日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

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