政策金利水準の収れん
各国中央銀行の政策金利はここ数年の平均でみると、最低水準に収れんしつつあります。それに関して、AXA IM Core Investments のCIOであるChris Iggoは、以下の見解を示しています。
こうした政策金利の動きは今後1年間では安定する可能性があり、キャリー(一定の市場環境におけるインカムゲイン)に基づく債券戦略にとって追い風となるでしょう。社債などのクレジット資産のリターン上昇も期待されますが、投資家は適切な利回りを確保しながら、投資する債券ポートフォリオの平均信用格付けを向上することも可能とみています。クレジットショックが規模を拡大しながら発生する可能性はあるでしょうが、名目成長率が堅調に推移する限り、市場では「押し目買い」の姿勢が優勢となるでしょう。
- 主なマクロ経済テーマ– 各国中央銀行の政策金利の収れん
- 主な市場テーマ –市場の下支えとなっている金利水準ながら、米国政府機関の閉鎖による短期的リスク
水準の収れん
世界的に、政策金利が収れんしつつあります。新型コロナ禍発生以降、世界の主要な中央銀行の政策金利差の平均値は2023年に最大となったのち、その後は縮小しつつあります。この平均値は今後もしばらく縮小を続けるとみています。というのも、米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げに動き、次回12月の会合でも利下げが予想されており、また、イングランド銀行も、インフレの鎮静化や2026年の財政引き締め策に応じて動いています。ユーロ圏や、英国、カナダでは、インフレ率自体は中銀の目標を上回っているとしても、実質政策金利(政策金利から実質インフレ率を引いた値)はほぼゼロになっています。エコノミストの多くは、中立金利がどこにあるのか議論する一方、来年2026年の見通しとして各国中央銀行にとって現在すでに市場が織り込んでいる金利水準が落ち着きの良い水準だろうと考えています。世界的には、金融政策は、2022年末の状況に比べ2026年初旬にはかなり容易になっているとみています。
一票
イングランド銀行は11月5日に政策金利を4%のまま据え置きました。しかし、4%の据え置きは、ベイリー総裁の投票で決める必要がありました。政策会合参加者間の意見の相違の主な原因は、英国経済の根底にあるインフレ圧力にありました。しかし、政府予算発表の時期も影響しているかもしれません。市場の見方では、リーブス財務大臣が、所得税率や控除の変更を含む、財政の確実な引き締めの必要性を認識した政策を打ち出すだろうという見方が高まっています。英国国債市場利回りは10月末に今年最低水準にまで低下しました。その後は上昇しているものの、予算案発表の11月26日を前に市場はパニックが迫っているという兆しを明確には示していません。金利先物市場では現在、3.5%を下回る政策金利をしっかりと織り込んでおり、金利低下が続く可能性が高いとみています。
金利の落ち着き
世界的に政策金利が低く安定していることは、債券市場のリターンの大部分はインカムから得られるという見方を強めています。イールドカーブ(利回り曲線)はこの機会を提供するものの、ポートフォリオにおいてより多くのデュレーションリスクを受け入れることが必要になるとみています。インフレと財政リスクはあるものの、現時点では市場はこれらのリスクの悪化を予想した動きにはなっていません。また、財政見通しが大幅に悪化しない限り、主要国債の利回りは大きく乖離する可能性は低いでしょう。現在の利回り差は超低金利時代よりも拡大していますが、世界金融危機前の10年間の市場水準と同程度です。したがって、金利市場の見通しでは、リターンとボラティリティ(変動)は低下することになるでしょう。
ヘッジコスト低下が到来
政策金利の収れんは、多通貨投資戦略に影響を与えると考えます。過去数年間、日本、スイス、ユーロ圏の投資家にとって、米ドルの為替リスクヘッジには多くのコストが必要でした。FRBが利下げを進めるにつれ、これらのヘッジコストは低下していくでしょう。例えば、米ドルとユーロの金利差は2026年末までに1.0%(執筆時現在、2.0%)になると予想されています。米ドルと日本円の金利差は、現在の3.5%から2.0%に縮小すると見込まれています。米国のイールドカーブがスティープ化(急勾配化)し、クレジットスプレッド(信用格差による利回り差)が拡大すれば、ユーロ、円、スイスフランにヘッジした米国債券市場のリターンは、以前よりも水準が良好なものになるとみています。
信用見通し
安定的に低下する金利は、クレジット市場のリターンを支える材料になるとみています。一方で注意すべきこととして、異なる信用格付け市場間のクレジットスプレッドは逼迫しており、さらに縮小する余地は小さいと考えられます。ここで考慮すべき点がいくつかあります。第一に、国債は金利スワップ金利と比較して割安になっており、国債利回りはスワップ金利よりも高くなっています。したがって、社債市場の利回りとスワップ金利を比較した場合、その差は国債利回りと比較した場合ほどには逼迫していません。スワップ金利をベンチマークとしている一部の機関投資家にとって、クレジット市場の利回りは依然として良好です。米国投資適格市場では現在、スワップ金利に対するスプレッドは約120ベーシスポイント(bp)で、米国債に対するスプレッドは82bpです。
もう一つの注目すべき点は、スプレッドが縮小したことにより、投資家はポートフォリオの信用力を向上させるために利回りを過度に犠牲にする必要がないということです。欧州の投資適格社債市場(ICE BofA ユーロ社債指数)のAA格部分とBBB格部分の格付け間スプレッドはわずか38bpで、これは同指数が2016年に初めて公表されて以来の最低水準です。米国市場における同様のスプレッドは約50bpで、低水準になっています。ここでの重要な点は、投資家がクレジット市場のバリュエーション水準やボラティリティ上昇の可能性を懸念している場合、保有するクレジット資産の信用格付けを改善しながら、適切な利回りを確保できるということです。
企業部門は健全性を維持
債券市場のボラティリティが高まるとすれば、金利ではなく信用リスクが原因となる可能性が高いと考えています。歴史的に、大規模なドローダウン(市場の最高値からの下落率)は信用リスクまたは金利リスクのいずれかによって引き起こされていますが、供給側に起因するインフレ上昇がない限り、金利リスクは考慮されません。最近、特に民間部門のクレジット市場について懸念が高まっていますが、パブリック(公開)市場は堅調に推移しています。これは、良好なマクロ経済環境と名目成長率の強さを考えると当然起こりうることと考えられます。今期第3四半期の企業決算報告は、そのことをより説得力のある形で裏付けています。ブルームバーグのデータによると、S&P 500指数構成銘柄企業の売上高は前年同期比で8%以上増加しました。
懸念材料は常にある
マクロ経済リスク面では、来年の間に一部のリスク資産市場が他市場に比べリターンの劣る時期があると考えています。現在、米国は連邦政府機関が一部閉鎖されています。これは、政府の資材購入費や人件費の支出が滞っていること、そして市場がこれまで通りには迅速な経済データを入手できないことを意味し、重大な問題になっています。最近の州知事選と市長選における共和党の不振は、この政府機関閉鎖に対する有権者の不満を反映しています。1年後、中間選挙が行われる際には、トランプ政権と共和党議会指導部にとって、さらに大きな試練となるでしょう。それまでの世論調査の動向と、米国大統領の対応は、市場の信頼感に大きな影響を与える可能性があるとみています。この閉鎖や公式データの不足によって一部隠れている経済の軟化、そして根強い生活費の高騰への懸念は、来年の中間選挙結果次第では、ホワイトハウスと議会の対立関係をさらに悪化させる要因となる可能性があるとみています。
機械を動かし続ける
しかし、その間も市場が強気になる十分な理由が残っているとみています。つまり、米国の経済成長は底堅く、欧州でも改善しています。人工知能(AI)設備投資ブームは減速する気配がありません。私(筆者)はAIに関する著書『Genesis』を読み始めました。これは故ヘンリー・キッシンジャーと、いわゆるテクノロジー界の巨人であるエリック・シュミット、そしてクレイグ・マンディーが共著したものです。他のAI関連書籍と同様に、この本は楽観と不安の両方を喚起しますが、重要なことは、機械が人間よりも知能を高め、物質的・社会的な生活水準を大幅に向上させる可能性を秘めていることです。企業は今日からAIに投資し、生産性向上の恩恵を受けることができるでしょう。これはより広範な経済的利益をもたらす可能性があります。市場には強気の見方があり、今のところ、選挙結果やクレジットスプレッドの拡大につながる悪意のあるツイートなど、表面的な経済見通しによって市場が下落する局面は、投資の好機と捉えられる可能性があるとみています。
パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ICEデータサービス、ブルームバーグ、アクサIMグループ。特に記載がない限り、2025年11月6日現在。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。また、記載内容は、2025年11月6日現在の資本市場を説明したものであり、特定の金融商品への勧誘や推奨を意図したものではありません。
(オリジナル記事は11月7日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
※本資料で使用している指数について
S&P500指数:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の500社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。
ICE BoAユーロ社債指数:ICEデータ・インデックス社が公表しているユーロ圏の投資適格社債の値動きを示す指数です。
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