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Investment Institute
マーケット見通し

幻想


夏休み期間に、様々なイベントが開催されています。その中で、筆者(以下、私)が目にしたもののうち最も奇妙だったのは、ドナルド・トランプ米大統領がワシントンD.C.への州兵派遣を発表した記者会見でした。これは、虚構と真実が混ざり合って喧騒を引き起こす2025年の生活の背景です。ミーム(ネット上で模倣や改変、切り取りなどで拡散していく現象)を見極め、どの投資戦略が機能し、何が最終的に一時的なリスクの犠牲になるのかを判断するのは、非常に困難ですが、それでもまだ可能とみています。幸いなことに、市場を基礎とした金融システムは堅牢であり、債券市場がその中心に位置しているとみています。インカムを得たい場合には、債券市場こそがその答えではないかとみています。

引き続き選好するのは、短期クレジット戦略、インフレ連動債戦略、ハイイールド債戦略です。

懸念材料は、米国株式市場、米ドル、そしてクレジットスプレッドです。

沿岸部の縮図

私は、夏の大半を英国南西部のコーンウォール州ファルマスで過ごすことが多くなりました。気候変動が進むこの時代においては、地中海よりも過ごしやすい地域です。景色は素晴らしく、海は魅力的で、地元のおいしい食べ物があります。それでもブルームバーグの画面は常にオンにしていて、市場はチェックしていますが、オフィスにいる時ほどではありません。経済や市場についてより広い視野で考える時間になっています。

英国では大都市圏を離れると、所得格差がいかに顕著で、英国経済がいかに厳しい状況にあるかが分かります。ファルマスの地元繁華街では、今年は例年よりも多くの店舗が閉店しています。街は物価と猛暑を理由にヨーロッパ大都市圏を避けたと思われる観光客で大変賑わっていますが、そのような休暇中の観光客は低価格帯の小売店で買い物をする客層ではなく、小売店は苦戦を強いられているようです。不動産市場はしばらく前にピークを迎えたという意見もありますが、豪華ヨットの製造とメンテナンスで有名なこの地域の地元造船所は活況を呈しており、今後数年間で事業を拡大する予定です。この地元の情勢はまさに英国の国家経済の縮図とみています。経済の成長は鈍く、低賃金の仕事の増加に隠れて雇用は不完全な状況にある一方で、富がはっきりと見て取れる状況でもあります。

ミーム経済

経済活動の細部は、必ずしもマクロ経済の全体像と一致するとは限りません。常に様々な事象が存在し、肯定的なものもあれば否定的なものもあります。なかでも最近定着しつつあるのは「ミーム経済」です。政治的偏向、市場操作、フェイクニュースが蔓延し、事象が独り歩きし、しばしば現実とは全くかけ離れた展開を見せます。こうした事象の多くはナンセンスで、ソーシャルメディアでのみ拡散されますが、一部は経済政策や地政学的関係の中心となっています。ここ1週間、トランプ大統領は米国の大手テクノロジー企業に対しCEO(経営最高責任者)の辞任を求め、輸入関税だけでは不十分なのか、中国への半導体販売に輸出税を課すと警告し、大手投資銀行の経営陣や経済調査チームが(大統領自身の見解では)経済分析を誤っていると批判しました。これらは通常の出来事ではなく、それゆえに経済と市場の方向性に関する通常の分析を困難にしています。

米労働省の労働統計局(BLS)が12日に発表した7月の米国インフレデータによれば、コアインフレ率が7月に2.9%から3.1%に上昇し、一定の消費財でインフレ率が顕著な上昇を示しているにもかかわらず、トランプ陣営は関税がインフレ率の上昇につながるという証拠はないと主張しています。このデータを受けて、ベッセント財務長官は連邦準備制度理事会(FRB)に対し、150ベーシスポイント(bp)の利下げを求めました。トランプ政権は、FRBが9月17日に金利政策を決定するまでに、自前のエコノミストのスティーブン・ミラン氏を連邦公開市場委員会(FOMC)に迎えたいと考えています。7月の米国生産者物価が前月比0.9%上昇(前年比3.3%上昇)したというニュースも関税の影響の証拠であり、FRBで興味深い政策議論が行われることを意味しているとみています。さらに、個人投資家主導によるミーム株(ネット上で話題になり株価が急上昇する銘柄の総称)の新たな株価上昇の波が報告されており、これが他の要因と相まって、S&P500指数を史上最高値に押し上げましたが、これにはお決まりの「極端な割高感」という表現が当てはまります。そして8月15日に、トランプ大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談し、ウクライナが侵攻した領土のどの部分をロシアが保持できるかを米国とロシアが決定しようとしています。私は、すべてがシンプルだったあの頃のことを懐かしく感じます。

好材料?

トランプ政権の語る物語は実に見事です。つまり - 政府は様々な取引を成立させている。数十億ドル規模の関税収入が米財務省の金庫に流れ込んでいる。インフレ率は低く(ジョー・バイデン政権の平均よりは確かに低い)、数週間前に発表された非農業部門雇用者数の不正確な数字に反して、労働市場は堅調だ。「専門家」たちは間違っていた。経済破綻などない。企業業績が二桁成長している今、株式市場が上昇してもおかしくない -と語っています。一方で、複雑な経済ネットワークにおける遅延効果を理解する訓練を受けた人々だけが、最悪の事態はまだこれからと主張しています。また、物価上昇や雇用拡大鈍化への不安は、ミーム的な言説では無視されているようです。

マネーはどこから来る?

8月11日の米国財務省の声明によると、今年度の関税収入(関税)は累計で1,550億ドル弱となっています。米国に商品を輸入するためにお金を払っているのは外国の企業や政府ではありません。外国の輸出業者は米国関税の影響を相殺するために輸出価格を下げているかもしれませんが、それは確かに輸出業者自らの経済的損失を伴い、そして、法人税の減少につながる場合はその企業の政府にとっても損失となります。しかし、関税の影響は主に米国の輸入企業と消費者が受けることになります。税金が民間部門から公共部門に移転し、また、価格上昇による消費者の所得損失の証跡もあります。しかし、関税のこうしたマイナスな側面はミームでは見られません。そして、最も重要な貿易相手国である中国が、追加関税実施の90日間延期を再び受けているため、そのマイナスな側面は今後も当てはまらないのかもしれません。

信頼

私はなぜこんなことにこだわっているのでしょうか?民間部門の収入を取り上げ、連邦機関の独立性を阻害する政策が、米国経済運営において重要な役割を果たしているという思いから逃れられません。そして、私は、政治的圧力によって企業経営陣が最適とは言えない意思決定を迫られ、最終的にはマクロ経済と市場に悪影響を及ぼす可能性があるとみています。投資において信頼は重要です。例えば、企業アナリストに、経営陣が来四半期に配当を支払うのか、株式を希薄化するのか、あるいは現在の信用格付けを維持できるのかを検討するように求めたとします。信頼が損なわれている場合、投資家はリターンを得るためには、高いリスクプレミアムを受け入れる必要があります。米国が他の先進諸国と比べて例外的な状況(米国例外主義)を維持し続けるためには、政策に関するミームが説得力を持ち続け、人工知能(AI)バブルによって、株価バリュエーション(投資尺度)が高騰し続ける環境下でも株式投資戦略でリターンを上げるために企業が十分な収益を生み出し続けるだろうという投資家からの信頼が必要とみています。すべては時が経てば明らかになるでしょうが、投資家が米国株式市場に投資する際には、考えるべきことが山ほどあるとみています。昨年の米国例外主義は、今年の幻想へと変化してきています。

債券市場は破綻しないとみている

一方、債券市場は相対的に安定しています。FRB、インフレ、そして長期的な財政状況への懸念にもかかわらず、米国債利回りのボラティリティ(変動)はこの夏、例年よりもさらに抑制されています。しかし、ソーシャルメディアを長時間検索しなくても、世界の国債市場に関する終末論的な予測を見つけることができます。幸いなことに、こうした予測の多くは金融システムにおける国債の役割を理解しておらず、国債の利払いによって表されるインカムの流れを理解していないような、金融に関する知識が十分ではないと思われる人々から発信されています。

米国債の約4分の1は外国の機関によって保有されています。これは、構造的な米国貿易赤字の長期的な資金調達の役割を果たし、外国の中央銀行が自国の国際流動性を支えるために準備金を保有する必要性を満たす役割をしています。これは必ずしも悪いことではありませんが、これらの外国機関の保有がわずか数カ国に集中していることは、米国に一定の懸念材料を与えています。ただ外国の投資家が米国債を売却しているという証拠はほとんどなく、米国債は世界金融の不可欠な中核構成要素です。10年債利回りが4.25%前後で推移しているという事実は、需要が強いことを示していると考えます。これは債券市場に関して終末論的な予測を行う人々を苛立たせているに違いないとみています。

米国債の残りは、米連邦準備制度理事会(FRB)や社会保障年金信託基金(社会保障給付金支払いのために国債を保有)などの連邦機関や、年金基金と保険会社、また、投資信託と銀行や個人貯蓄者(証券口座経由または税効率の良い貯蓄債券の形で)によって保有されています。米財務省がクーポンを支払うと、そのマネーは概して、米国の債券保有者の利益となります。それは貯蓄者と年金受給者の収入であり、生活水準を支えたり、資本として再投資されたりして、米国経済の利益となります。そして、それは他の国でも同様です。私がX(旧Twitter)で読んだある記事は、米国債の利払いの相当額が、外国の政府や銀行に流れていると示唆していましたが、銀行はクーポンが4%の米国債を保有するよりももっと収益の上がる方法を知っているでしょう。

財政懸念

これは債務安定性への懸念を軽視するものではありません。税収が利払いに充てられるほど、政府が福祉や投資に充てられる資金は減少します。そして、政府からの借入需要が増加すると、民間の借り手の資金調達が難しくなり始める時期が来るでしょう。しかし、私はまだ危機的状況には至っていないと考えています。米国では、連邦債務の利払いは総支出の約14%を占めています。これは歴史的には高い水準であり、1980年代と1990年代の水準に戻っています。90年代以降は、相対的に低い金利によって政府支出に対する抑制圧力は軽減され、世界金融危機とパンデミックによる経済ショックに積極的に対応することができました。金利の上昇は利払いの増加を意味し、政府の借入に対する抑制圧力は高まるものと考えられます。

英国では、純利払いは現在の政府支出の約8%を占めており、過去20年間、安定的に推移しています。しかし、英国メディアの一部はこの利払い水準を強く批判し、労働党政権に今秋の増税を迫っていますが、こうした増税は低成長経済には不要なものとみています。また、債券市場の利回りは2023年のピークからは低下しており、短期債市場の利回りも低下していることから、英米の財務省は借入を調整し削減できる可能性もあることを念頭に置くべきと考えます。

リスクはあるものの、安定したリターンは期待できるとみている

米国と英国の財政状況には懸念すべき点があります。米国については、現政権が中期予算見通しに新たな債務を積み増して、現在、逆進的な(税負担率が所得の低い人ほど高くなる傾向のある)税制を好んでいることが懸念材料です。今後5年以内に償還を迎える国債の平均クーポンは約2.75%であるため、償還する債務の借り換えに伴い、借入コストは上昇し続けることになります。現政権下ではこれは短期国債での資金調達を増やすとともに、トランプ政権の政策方針に沿わない給付金制度やその他の連邦支出分野への支出を抑制しようとする動きをさらに強めることを意味するとみています。債券市場への投資家にとっては、現在保有している債券よりも高いクーポンの国債の供給増加、つまりインカムゲインの増加を意味します。しかしこのインカムゲインを何に使うのか、軽視すべきではないと考えます。

英国に対する懸念は、経済成長の弱さ(2025年4~6月期に1.2%成長したのは主に政府支出がけん引したことによります)に起因しており、追加の増税なしに政府債務が減少すると予測することは困難です。しかし、国債が経済において中心的かつ根深い役割を果たしていることを考えると、これらの市場を真に混乱させるには様々な要因が必要になるとみています。私は当面、債券市場については引き続き楽観的な見方を維持します。最近のデータを見ると、ボラティリティと利回りが年後半に上昇することを示唆していますが、債券市場を積極的に空売りするほどではないとみています。債券のボラティリティは株式に比べて低いため、得られるインカムは貴重であると考えます。年初から7月末までのトータルリターンに占めるインカム部分は、米国債市場と英国債市場で1.9%、米ドル建ておよびポンド建ての投資適格社債市場やユーロ建てハイイールド債市場では2.8%、米国ハイイールド債市場では3.9%でした。債券市場から得られるインカムリターンはインフレ率を上回っています。米国と英国の金利が低下するにつれ、クレジットインカムはキャッシュリターンを上回るようになるとみています。

現実は多かれ少なかれ機能する

どんな社会でも貯蓄の分配は必ずしも平等ではありません。能力、機会、教育、そして運の違いを反映して、所得格差が存在します。高所得者は貯蓄額が相対的に多く、負債額が相対的に少ない傾向があります。低所得者は持続可能な最低生活水準を維持するために必要な負債を十分に負うことができないため、政府は債券を発行し福祉、医療、教育への支出を支えています。もちろん、その一部は税金で賄われていますが、富裕層は債券を購入し、その利子収入から利益を得ます。これは、20世紀半ば以降、堅牢であることが示されてきた社会民主主義及び資本主義における金融システムです。そして、金融資産の購入者は、このシステムによって富を増やすことができました。したがって、現在のミームが何であれ、暗号通貨の信奉者が何を言おうと、私たちは金融システムへの信頼を維持すべきと考えます。しかし、システムは許容できるレベルの透明性と、比較的制約の少ない市場原理の下で機能する必要があるとみています。これは現在、米国で危機に瀕していますが、今のところ、債券ミームは株式ミームよりも深刻ではないとみています。

パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ICEデータサービス、ブルームバーグ、アクサIMグループ。特に記載がない限り、2025年8月14日現在。

過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。また、記載内容は、2025年8月14日現在の資本市場を説明したものであり、特定の金融商品への勧誘や推奨を意図したものではありません。

(オリジナル記事は8月15日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

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