
ノイズではなく、冷静な状況
- 2025年6月4日 (5 分で読めます)
世界の地政学的および経済的議論は対立色を強めています。これが投資家にとって不確実性を生み出していると見ています。市場のセンチメント(心理的状況)は変動しています。ノイズ(雑音)を離れて見ると、市場の実質リターンは特別なものではないと見ています。しかし、貿易戦争は、どのように進展してもマクロ経済的にはショックとなりますが、現実はその発言ほどには厳しくないと見ています。世界の主要株式市場の年初来リターンはプラスであり、相対的に大きく上昇している市場もあります。一方で、国債に対する懸念が過度と思われるほど強まっても、債券が投資家にインカムを提供しているという事実が変わることはないと見ています。バランスの取れたポートフォリオは順調に機能していると見ています。冷静さを保ち、ノイズは無視すべきと考えています。
戦い続ける
米国政権の現在の哲学は、アメリカの偉大さという概念を復活させることです。これは、この偉大さの実現を妨げていると見なされる者 - 外国政府や機関、移民、そして国内で進歩的な政策案を追求している者 - への対立を意味します。市場にとって、この対立的手法のうち最も重要な政策は貿易政策であり、米国に有利な形で世界の貿易システムを再構築しようとする試みです。今や私たち市場参加者は、この政策がどのように非正統的で予測不可能な方法で追求されているのか、そしてそれが投資家のセンチメントや市場価格にどのようなボラティリティ(変動)を生み出すのかを認識しています。近い将来、米国政府は貿易においてより良い結果を求めて戦い続け、連邦政府の赤字を拡大する予算を支持し、MAGA(米国を再び偉大にする)政策に合致しない社会的平等、健康、気候リスクなどの分野での研究資金削減を追求すると見ています。自らを傷つける可能性がある経済的損害のリスクは相当程度高いと見ています。
抵抗
この政策は、市場、裁判所、米国企業やショービジネス、そして世界の他の地域からの抵抗を受けています。トランプ大統領が数兆ドルの投資が約束されていると主張しているにもかかわらず、米国は解放の日の関税が復活するという脅威を示しても意味のある貿易協定を確保できていません。実際、大統領は、中国や欧州連合(EU)に対しリセッション(景気後退)入りを保証するかのような関税の脅威からは後退しており、中国やEU市場への優先的なアクセスを確保したと勝利宣言することも、米国の製造業への外国投資の増加に関する現実的な計画を持つこともできていません。最終的に、トランプ大統領が米国に有利な取引を成立させたと主張することが、事態を和らげるのには十分かもしれません。それは市場にとってポジティブに反応する触媒になると見ています。しかし、結論が出ないまま対立が続くリスクもあると見ています。
センチメント
世界の主要株式市場は、トランプ大統領政策の後退に伴って上昇する傾向があり、今週(執筆時)も一時的にそうなりました。これは、関税を課すために国際緊急経済権限法に基づく権限を行使することが違法であるとの米国際貿易裁判所の判決を受けた動きでした。しかし、その判決が控訴されると、再び下落しました。このパターンが繰り返される可能性が高いと見ていますが、結果は明確ではありません。米国が再び偉大になるのはいつわかるのでしょうか?政権が、特定のセクターや中国に焦点を当てた関税とともに10%の包括的な関税を下回るような妥協をすることは現実的でないと見ています。政権の対立的な政策手法は、少なくとも2026年の中間選挙までは続く可能性が高いです。そのため、投資家のセンチメントはボラティリティが高く、市場は方向性を欠いた動きになる可能性があると見ています。
国内 対 国外
国内の投資家と外国の投資家では、米国への投資に対する異なるセンチメントを抱いている可能性があると見ています。世界の他の国々に対する米国の対抗意識が政策の核心にあると見ています。つまり、米国に対して不公平または差別的な税制を持つと分類される国から得られる外国人や企業のさまざまな収入源に対して追加税を課すことを許可する予算の条項に注意が必要であると見ています。この対抗意識は、米国が国際的な共感を失う中で、米国資産に対する資産配分の決定にも影響を与えると見ています。この政策手法は、成長、企業利益、インフレ、金利、ドルなどの米国経済のファンダメンタルズに対し不確実性を生み出します。全体として、これにより投資家は自国偏重の傾向が強まると考えます。ドルは貿易加重ベースで他の主要通貨に対し今年初から現在まで9%以上下落しています。重要な貯蓄水準を持つ国々(その一部は米国の借入ニーズに対する資金調達をするために米国に流入しています)の株式市場は、米国市場を上回っています。
最終的にはファンダメンタルズがリターンを決定すると見ている
以前にも述べたように、外国投資家が米ドル市場から完全に資金を引き揚げるという主張には無理があると見ています。大規模な資金移動の兆しが表れた場合、世界の金融市場や世界経済が非常に不安定になる可能性があると見ています。さらに、将来のリターンを考慮すると、米国に投資を続けるには合理的な理由があると考えており、また、いずれは今よりも正統的な政治に戻ると予想されます。しかし、ポートフォリオの配分をある程度変更することは可能であり、世界中で投資に関し討議されていると見ています。政策に関するノイズやセンチメントの変動を超えて、基本的な見通しとリスクがこうした討議の結果を決定することになると見ています。米国の自傷的なマクロ経済へのショックが展開されているのを見ていると、株式のパフォーマンスは過去数年に比べて抑制されたものになることが予想されます。
マクロ経済へのショックは、米国への流れを中心としたグローバル貿易が減速する可能性を意味し、不確実性やサプライチェーンの混乱、輸入価格の上昇による実質所得への影響を通じて、より広範な経済活動に波及的な影響をもたらす可能性があると見ています。そのショックの規模は明確ではありません。バランス的に見れば、マクロ経済ショックは株式市場よりも債券市場に有利に働くと考えます。債券投資家にとって、インフレリスクと財政リスクを負うことになると考えます。また、ドル以外の通貨を用いる投資家にとって、ドルの下落リスクや、対立がさらに激化した場合に米国の金融資産への投資から得られるキャッシュフローに対する不明確で潜在的なリスクについて懸念があると見ています。
方向性が無い
米国株式市場には方向性がほとんどないため、投資家がポートフォリオの再配分をあまり行っていないのではないかと考えています。米国株式市場のトータルリターンは年初来で横ばいであり、S&P500指数とナスダック総合指数は米国小型株式市場を上回っています。過去1ヶ月のリターンはプラスとなりましたが、市場全体で見ると、今年2月に達した高値を依然として下回っています。世界的に見ると、米国の株式市場は、中国地域の株式市場とともにパフォーマンスが劣っている一方、欧州市場は相対的に良好な結果を示しています。もし貿易戦争に関する発言が続き、新たに課せられる貿易摩擦の中核部分が米中の貿易を目的にするであれば、株式市場の相対的なパフォーマンス関係がはっきりと逆転する理由が見当たらないと見ています。
もちろん、欧州は先週見られた脅威のように、トランプ大統領の関税政策によって厳しい打撃を受ける可能性があると見ています。欧州の株式市場にとってマクロ経済の背景は従来から相対的に良好ではありませんが、その為に、欧州中央銀行(ECB)は金利を引き下げることができると見ています。また、ドイツの財政支出は今後の欧州経済の成長に追い風となる可能性がありますが、実態はまだ見えていません。欧州株式市場は米国市場に対してバリュエーション面では相対的に割安な状態にあります。両地域の来年の利益成長期待は軟化していますが、下方修正のペースは鈍化しています。そして、テクノロジーという観点もあります。エヌビディアは今年2~4月期に売上額が440億ドルに達し、アナリストの予想を上回りました。人工知能(AI)というテーマは依然として有効であり、グローバル株式投資戦略でこのテーマへの投資を避けることは難しいと見ています。これまでのところ、米国に対し欧州の株式市場がアウトパフォームしていることは印象的であり従来ではあまり見かけないことです。しかし、欧州に対してどれほど共感が強く、また、現在の米国政権に対してどれほど反感を持っていても、欧州市場が米国市場に対し年初来見られているようなアウトパフォーマンスが続くことを期待するのは楽観的過ぎるのではないかと見ています。
原因はCEOではなく、政治家と見ている
不確実性を引き起こしているのは、米国企業ではなく、米国政治と見ています。米国株式市場は相対的に割高ですが、米国企業は力強い業績を示しており、今年と来年は依然として二桁成長が予測されています。市場は、センチメントがそれほど悪くない国内投資家によって支えられています(MAGA政策に対する共感があるからと考えています)。現状、リセッションはなく、マネーマーケットには相対的に豊富な流動性があり、テクノロジーは進展を続けています。米国例外主義の要素は米国株式市場に残っています。投資戦略としてバランスと分散が外国投資家にとって重要と見ています。バリュエーション(投資尺度)や他のマクロ経済リスクを考慮すると、結果的に米国市場への投資比率を低く設定することになるかもしれませんが、それは米国が投資対象外になることを意味するものではないと考えています。
トレンドに乏しい債券市場(手掛かりがないわけではない)
世界の主要な債券市場のリターンは年初来ではほとんどがプラスになっています。米国債券総合指数(ICE BofA US Broad Market Index)におけるインカムリターンは、年初来のトータルリターン2.24%のうち約1.5%となっています。類似の欧州債券指数(ICE BofA Pan-Europe Broad Market Index)では、リターンはインカムが大半を占め(トータルリターン1.0%のうち0.9%)、インフレや財政の持続可能性に関する懸念があるにもかかわらず、ドイツ国債市場利回りは一定の範囲内での動きに留まっています。しかし、米国や英国、日本では、高い水準にある政府の借入に関して将来の国債発行に対する懸念によって、イールドカーブ(利回り曲線)がスティープ(急勾配)化しています。債務を管理する機関は、将来の発行を利回り曲線の短期部分に焦点を当てる必要があることを認識しているため、そうした懸念は総じて過度なものであると見ています。ムーディーズによる最近の米国の信用格付け引き下げ後に見られた米国債利回り5%は、買い入れの好機を示すものだった可能性があると見ています。歴史的に見て、この水準は長期国債に投資したい場合の相対的に良好な投資開始水準であることを示唆していると考えます(これは別の機会に議論したいと思います)。
米国債市場での主要なリスクは、新たに発行される国債のクーポンが引き上げられる必要があることであり、追加の購入を促すために赤字が拡大していることです。これにより国債の市場利回りが上昇し、既発の国債価格が下落し、債券投資戦略のポートフォリオにおいて価格リターンがマイナスになる場合があります。米国債投資戦略に投資している外国投資家にとっては、米国のインフレが高まり、ドルがさらに弱くなることで、保有資産の実質価値が損なわれることへの恐れもあると見ています。政権が正統的ではない動きをしているにもかかわらず、債務を貨幣化して財政の持続可能性問題をインフレで解決するつもりだという示唆はありません。米国財務長官のスコット・ベッセント氏は、2021年から2023年のインフレ率上昇がある程度、米連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシート政策によって量的緩和を加速させた結果であったことを認識しています。これは現在の政策の選択肢ではないと見ています。しかし、利回りのボラティリティが債券市場の長期部分ほど高くなっているため、短期デュレーションの債券投資戦略を続ける方が安全性が高いと見ています。投資適格債券やハイイールド債券の短期デュレーション投資戦略は、この不確実な世界において良好な投資機会を引き続き提供していると見ています。
リスクは高まっていると見ています。リスクプレミアム(リスクに対して支払われる上乗せ価値)も高くなっていると考えます。市場のボラティリティが高まる局面もある(評論家たちの条件反射的反応を伴う)と予想しています。世界は変化していますが、市場資本主義はまだ有効であり、機能が揺さぶられているだけであると見ています。それが不確実性を生み出していると考えています。しかし、経済のファンダメンタルズは依然として堅実であり、米国政権からの対立のレベルは最終的には後退していくと見ています。このため、社債などのクレジット市場からインカムフローを獲得し、テクノロジー企業が生み出す利益成長を享受できるようなしっかりとした組入れを持つ投資戦略においてバランスの取れ分散の効いたポートフォリオから得られる長期的なリターンは、引き続き資産の成長を見込むことができると見ています。
企業への参照は例証のみを目的としており、個別銘柄への投資を推奨するものではありません。
パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ICEデータサービス、ブルームバーグ、アクサIMグループ。特に記載がない限り、2025年5月29日現在。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。また、記載内容は、特定の金融商品への勧誘や推奨を意図したものではありません。
(オリジナル記事は5月30日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
本資料で使用している指数について
S&P500指数:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の500社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。
ナスダック総合指数:米国NASDAQに上場している全銘柄の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。
ICE BofA US Broad Market Index 及び ICE BofA Pan-Europe Broad Market Index:ICEデータ・インデックス社が公表している米投資適格債券全般及び欧州投資適格債券全般の値動きを示す指数です。
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