イールドカーブを上る
債券市場の長期部分のリターンは短期部分よりも高くなり始めました。この状況は、イールドカーブがスティープ化するにつれて長期部分ほどキャリー(一定した市場環境下で得られるインカムゲイン)が向上するということを考えると、合理性があると考えられます。それに関して、AXA IM Core Investments のCIOであるChris Iggoは、以下の見解を示しています。
イールドカーブ(利回り曲線)のスティープ化(急勾配化)を根拠に債券ポートフォリオの配分を変更するか否かは引き続き考慮しています。もし根拠があるとなれば、クレジット(信用)に対する懸念が強まっていることも配分変更の重要な要素に含めるべきとみています。
- 主なマクロテーマ – 成長見通しは熱気に乏しく、そのことは無視すべきでないと考える
- 主な市場テーマ – テクノロジー企業の借り入れは創造的になってきている
季節は巡る
パブリック(公開)市場において、持続的な実質好リターンを予測することはますます困難になっています。株式市場とクレジット市場のバリュエーション(投資尺度)は割高の水準にあり、米国と英国のインフレ率は2020年以降中央銀行の目標を上回っています。公的債務問題は、通貨切り下げの可能性を伴う財政主導の時代を示唆しており、市場でよく取り上げられる様々なマクロ経済リスクと政治リスクがあります。しかしながら、オルタナティブ(代替)資産クラスは、異なるリスク・リターン特性を提供することで、引き続き資金を惹きつけています。ヘッジファンドは、高頻度取引や複雑でレバレッジを効かせた投資戦略を組み合わせることで、相関性の低い(そして高い水準の)リターンの実現を目指しています。プライベートクレジット(銀行仲介によらず、ファンドなどの貸し手が借り手の企業に直接行う融資)は、流動性をある程度放棄することで、リターンの向上を得られる可能性があります。プライベートエクイティ投資ビークル(資産と投資家とを結ぶ機能を担う組織体)は、新規株式公開(IPO)前の企業への投資を通じて、より高いリターンを獲得するための道筋を提供することができ、人工知能(AI)によるバリューストリーム(製品あるいはサービスを顧客の手に運ぶことに要求される全体的な活動)が急速に進化している世界では、非常に有効な手段であるとみています。金は、希少価値、インフレヘッジ能力、そして株式との相関性の低さを有利な点として取引されています。暗号通貨は、中央集権的なグローバル金融システムの一部ではない(このことには注意が必要です)など、様々な理由で一部の人々にとっては有力な投資対象になっています。
オルタナティブ資産においては、こうした要因を評価することがより困難とみています(資産の定義上でそう考えられるとする意見もあります)。そのため、リスクプレミアム(リスクに対して求められる超過収益)がファンダメンタルリスクや流動性リスクを補い切れていない場合の評価も同様に困難とみています。結果として、センチメント(市場心理)に影響を与えるニュースは重要と考えます。最近、米国では比較的規模の大きい破綻が発生し、地方銀行についてもクレジット懸念が高まっています。市場の内で透明性が乏しい分野であれ信用問題を示唆するニュースがあれば、流動性の高い市場は打撃を受けるでしょう。朗報としては、米国企業の今回の決算発表において、銀行は信用力や貸倒に関して懸念材料を示していません。しかし、米中貿易関係への懸念が再燃したことを受けて、スプレッドが拡大していることに留意する必要があります。これは一時的なものかもしれませんが、今後数ヶ月間のスプレッドは、拡大傾向になると考えられます。
ボラティリティに対しての備え
公開市場における最大の懸念はバリュエーションとみています。この件については最近既に何度か語ってきたので、これ以上は述べませんが、バリュエーション指標(株式市場の株価収益率、クレジット市場のスプレッド)とその後のリターンの関係を徹底的に検証するようになりました。率直に言って、リターンの見通しは芳しくありません。期間にもよりますが、今後10年間の米国株式の実質リターンはほとんどなく、今後5年間の債券クレジットクラスからの超過リターンもほとんどないとみています。これは過去のデータとみせかけの回帰分析に基づくものですが、市場の見方は、現在のあらゆるものの割高感(過去3年間で大きな利益を上げてきたことへのツケ)に対する懸念を示しているとみています。バリュエーションに対する懸念が広がれば、投資家のリスク回避姿勢は簡単に強まるとみています。今後数週間で、季節的に典型的なボラティリティ(変動)の上昇を経験しても不思議ではないでしょう。
価格は環境を完全に織り込んでいるか
今年に入ってからこれまでの市場の上昇を踏まえると、今はより守りの投資姿勢を取るべきでしょうか?市場が引き続き米国の政策リスク、地政学的緊張、そしてバリュエーションを重く見ないことを期待できるでしょうか?そうなるかもしれません。もしかすると、今期の決算シーズンは引き続き好調に推移するかもしれません。米国の銀行決算は好調です。欧州の高級品企業の決算も堅調です。第3四半期決算はS&P 500指数構成企業の10%しか発表されていませんが、その増益率は16%に達しています。先々週議論したマクロ経済のテーマ、すなわち富裕効果、堅調な信用市場、そして財政緊縮策の欠如は、経済のプラス成長を維持するのに十分な力を持っているかもしれません。つまり市場のパフォーマンスは、このような良好な経済環境を強く反映しています。
デュレーションを長期化すべきか?
近年、債券市場において長期デュレーション資産は苦戦を強いられてきました。しかし、状況は変わりつつあります。米国、英国、ユーロ圏の国債市場では、今年、長期デュレーションの市場分野が短期に対しアウトパフォームしました(7~10年国債市場対1~3年国債市場)。しかし、政府債務水準と国債の過剰供給を懸念する債券弱気派は、この市場の動きに納得しないかもしれません。現在の10年国債と2年国債のスプレッド(利回りの差)に基づくと、歴史的に見て、短期利回りに対して長期利回りはプラスのリターンを確保すると予想されます。これは、長期利回りによるキャリーの増加を反映していますが、リスクオフ(投資家が市場リスクを避け安全資産に資金を移す状態)の環境下で国債のイールドカーブが全体で低下するか、最近のイールドカーブのスティープ化が反転してフラット化(平坦化)することで、トータルリターンが押し上げられる可能性もあるとみています。イールドカーブのスティープ化が続けば、長期デュレーションに配分する根拠はさらに説得力を持つようになるでしょう。欧州国債の10年債と2年債のスプレッドは30年間の平均レベルに戻り、キャッシュ金利が2%であるため、債券市場の長期分野は投資にとって良好な水準になっているとみています。
信用にはまだほころびは見られない
債券ポートフォリオの配分において、クレジット市場をアンダーウェイトにし、デュレーションを長くするという考えはまだ市場の共通認識になっていません。しかし、バリュエーションだけを見ても、この戦略は検討する価値があることが示されていると考えます。特に投資家が信用問題への懸念を強めている場合には、なおさら有効とみています。テクノロジー企業による借入は、公募債の発行だけでなく、プライベート(非公開)市場のクレジットビークルを通じても増加しています。M&A(合併・買収)も活発化しています。人工知能(AI)ブームは投資家の野心的な意欲を刺激し、株式市場だけでなく債券市場にも流れ込んでいます。アクサIMグループの米国クレジットチームは、事業開発会社(公開市場で資金を調達し、非公開企業に投資する特別目的会社)の資金の約20~30%がテクノロジーセクターに投資されていると推定しています。大手テクノロジー企業がAIの展開に投じている資金の規模を考えると、これは理にかなっているとみています。バリューチェーン(価値連鎖、企業の各事業活動を価値創造のための一連の流れとして捉える考え方)を通じ、スタートアップ企業もAIの発展に大きく貢献しているからです。AIブームがすぐに終息するとは思えません。しかし、将来の収益が、現在進行中の投資ラッシュを正当化するほどの高い投資収益率を生み出すかどうかという疑問は残ります。市場は、資産評価の上昇が続く状況にあって、AI 資本支出に資金をさらに割り当て続けることができるでしょうか。
変化に投資
市場は調整局面を迎えるべきだというのは陳腐な言い方ですが、まさにそのように感じます。資産運用業はたくさんの情報にさらされます。その中で、先週注目したことが二つあります。一つは、ヘッジファンド運用会社シタデルのCEO、ケン・グリフィン氏が講演会で、AIはトレーディングや投資におけるアルファ創出には役立たないと述べたと報じられたことです。もう1つは、資産運用の分野ではAI主導の投資助言の価値には疑問があるとする見出しです。確かに、恣意的な報道であることは承知しています。しかし、クリーンエネルギーが世界を変えると人々が興奮していた時代を思い出してください。それは今でも変わりませんが、再生可能エネルギーのバリュエーションは新型コロナ以降、大きく下落しました。AIはクリーンエネルギー取引よりも大きな影響力を持つと考えられるため、バリュエーションの見直しが行われれば、より多くの市場がリスクにさらされることになるとみています。AIは世界を変えるでしょうが、その変化を起こすには今、多大なコストがかかっていると考えています。
デュレーションの長期化を再び志向する
現状では、クレジットスプレッド(信用格差による利回り差)は縮小し、株式市場のバリュエーションは極めて高い水準にあり、また、経済成長は緩やかになると予想されています(最新の国際通貨基金(IMF)の予測では、先進国経済の成長率は2025年と2026年ともに1.6%にとどまり、米国の成長率は2.0%近辺で推移すると見込まれています)。したがって、よりディフェンシブな投資戦略を講じるべき時期が来ている可能性があり、債券ポートフォリオのデュレーションを長期化する戦略はその一環となる可能性があるとみています。リスクオフ局面が到来すれば、この取引は有効となると考えています。
パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ICEデータサービス、ブルームバーグ、アクサIMグループ。特に記載がない限り、2025年10月16日現在。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。また、記載内容は、2025年10月16日現在の資本市場を説明したものであり、特定の金融商品への勧誘や推奨を意図したものではありません。
(オリジナル記事は10月17日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
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