亀裂が生じ始める
キーポイント
- 経済の回復力に亀裂が生じる - 中央銀行がジリジリしていたその時
- 当社は、年央にあたりマクロシナリオを再検討
欧米の経済の回復力は目覚ましく、中央銀行がインフレ急進への対抗姿勢を強めようとする上で重要な要素となってきました。経済における通常の「自己安定化力」、例えば物価上昇に伴う消費の減速が現れない場合、FRB(米連邦準備制度理事会)とECB(欧州中央銀行)は利上げを前倒しする必要性をより強く感じることになります。しかし先週、中央銀行の新たな決意が伝わった瞬間に、経済減速の兆しが現れました。米国とユーロ圏の6月のPMI(購買担当者景気指数)が予想を下回ったことに加え、ミシガン大学が発表した6月の米消費者信頼感指数(2次確報値)でインフレ見通しがあまり芳しくなかったことから、市場のフェデラルファンド金利予想が珍しく下方修正される事態になりました。さらに、今のところ中国でさらなる新型コロナ感染拡大が起きていないことから、世界経済は製品価格を通じた供給サイドのさらなるインフレ圧力を回避できるかもしれません。最後に、原油価格動向は緩やかになっています。
今週は、成長率のスピード修正を測るための重要な発表が控えていますが、年央にあたり当社の予測を見直すと、痛みを伴うが制御可能な景気のランディング(着陸)が基本シナリオとなる見込みです。当社は、米国とユーロ圏のGDP成長率をFRBおよびECBよりも低く予想していますが、それこそが、両中央銀行が示唆するほどには引き締めがないであろうと考える理由であり、年明けまでに市場に何らかの安堵をもたらす可能性があります。それでも当社は、金融政策の強化を余儀なくされる「インフレの持続」という別のシナリオを注視すべきと考えています。当社は、このシナリオが欧米で同じ形をとるとは考えていません。米国では賃金上昇率が高すぎるため、インフレを抑制することは難しいかもしれません。インフレ率の変動は主に「コア(インフレの基調部分)」から生じているため、FRBの仕事は痛みを伴うとはいえ、単純なものになるでしょう。欧州では、天然ガス価格のさらなる高騰(ロシアの供給制限に反応して先週すでに上昇)など、別の外生的な衝撃がより自然な要因となると思われます。ECBはインフレ期待を抑えるために緩やかな利上げを続けるでしょうが、当社は、ユーロ圏の各国政府とECBの間にやや緊張が生じると予想しています。ユーロ圏は「フラグメンテーション防止ツール(ソブリン資金調達コスト差拡大への防止措置)」を導入せざるを得ないと思われますが、各国政府に対する軽度のマクロ経済的条件付けさえも実現の可能性は低いとみられます。
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