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Investment Institute
マーケット見通し

連動する債券市場と、日本国債


債券市場の一部では、日本国債(JGB)利回りの上昇が世界の債券市場にとって弱気な兆候を示しているとの懸念があります。日本から他国市場への投資は相当な額に上っていますが、利回りが上昇している国内債券へ投資を回帰させると、米国と欧州の債券利回りは上昇するとみられています。また、インフレや財政リスクといった日本の利回りを上昇させる要因が、他の地域でも作用するのではないかという懸念もあります。直近の経済データは、日本のインフレ率が安定し、日本銀行が政策金利を0.5%に据え置くことを示しているとみています。多くの債券市場では各国固有の要因がそれぞれ影響をおよぼしているものの、利回りは依然として世界的に以前よりも高い水準を維持しており、債券市場の投資家にとってトータルリターンは依然としてプラスとなる可能性が高いとみています。


懸念材料

債券市場では懸念点が3つあると考えます。一つ目は、中央銀行が政策金利について市場予想に反する変更を行うことによって債券市場の価格が再調整されること、二つ目は、インフレによって債券の実質価値が損なわれること、そして三つめは、財政赤字の拡大に伴い国債の発行が増加することですが、こうした場合、債券市場の利回りは上昇し、追加投資には良好な水準となるとみています。現在(執筆時)、これら3つの懸念点のうち少なくとも2つは市場全体で顕著に表れています。そして、特に日本と英国で顕著です。少なくとも、市場のコンセンサスではそう捉えられています。日本の場合、懸念されるのは、ようやく上昇してきたインフレ率や、日銀のバランスシートの縮小、そして長期国債に対する構造的な需要の変化が利回りを押し上げていることです。これは、日本の利回り上昇が世界の資本フローに影響を与える可能性があることを意味します。つまり、日本の投資家にとって海外よりも自国市場に投資する動機が高まる一方、他の投資家は円キャリートレード(相対的に低金利の円資金を借り入れ、その資金を相対的に高金利の外貨に転換して運用する取引)を解消せざるを得なくなります。その場合、日本の国債利回りの上昇は、世界の国債利回り上昇の潜在的な原因になると考えられます。英国にも同様の懸念があります。インフレ率は依然として高く、利下げは困難で、財政見通しも思わしくないという状況への懸念です。

懸念材料は世界的

G7諸国の国債市場では、利回りの相関性が市場間で強いことを理解することが重要とみています。2022年以降、利回りは世界中で上昇しています。2007年末(世界金融危機と量的緩和期の開始時期の代表時点)の10年国債利回りの水準と比較すると、世界の国債利回りはかろうじてその水準に戻ったばかりです。米国債利回りは2007年末の水準を越え、2023年半ば以降はその水準を上回っています。しかし、他の市場はようやくその水準に戻ったばかりです。英国債はその水準から11.6ベーシスポイント(bp)高い一方、日本国債は依然として6.2bp低く、ドイツ国債は160bp低い水準にあります。日本の国債利回りの変動に特別な点はありません。利回りは世界金融危機前の通常の水準に近づき、名目GDP成長率の長期トレンドとの整合性が高まってきました。言い換えると、利回り水準が例外的に低かったのは2008年から2022年までです。とはいえ、市場が利回りのさらなる上昇を望んでいるとはみていません。

債券市場の相関性

国債市場の流動性、いわゆる無リスク資産としての国債の役割、そして資本の流動性を考えると、利回りの相関性の強さは当然かもしれません。また、日本の利回りは長らく低水準であったことも忘れてはなりません。これは、1980年代末の株価暴落や不動産バブルの崩壊、そして、日本における長期にわたるデフレーション環境の産物です。また、G7諸国の中で、利回りの変動性が最も低い市場でもありました。私(執筆者)は、日本国債の利回りを他の国債市場(米国、ドイツ、英国)の利回りに回帰分析するという簡単な分析を行いました。相関性は強く、回帰分析結果に基づいて日本の利回りを見直し分析すると、実際の利回りにかなり近い値が得られます。つまり、日本の利回りの変動は、世界の国債利回りの変動によっておおよそ説明されます。

最近まではそうでした。しかし、2023年末以降、日本国債の利回りは上記分析で他市場の利回りによって試算される水準をはるかに上回っています。この乖離は、日銀による最初の金利調整と軌を一にしています。その後、日本のインフレ率が徐々に上昇するにつれ、市場は日本の金利と国債利回りが過去にみられたような他市場の水準を大きく下回る状態にはならないだろうと考えるようになりました。他国よりも大規模な量的緩和を行った日銀が現在はバランスシートを縮小していること、そして日本の保険会社や年金基金が長期国債への需要を低下させていることは、日本国債のイールドカーブ(利回り曲線)上に特有のリスクプレミアム(信用リスクの差による利回りの差)を生み出しています。日本は国として資産が非常に豊富で、持続的な経常収支黒字によって長年にわたり海外資産を蓄積してきました。しかし、政府債務対GDP比は他のG7諸国よりも高くなっています(OECDによると、総債務はGDPの216%に相当します[1])。これは市場にとってさらなる懸念材料となっています。しかし、心配するほどではなく、日本には債券危機は発生しておらず、国内要因のほうが大きな影響を及ぼします。細かく言えば、日本の投資家が欧米市場の主要な債権者であることから、投資家は日本のマクロ経済状況が他の地域への資本フローや債券利回りに影響を与える可能性に備え、より一層注意を払う必要があると考えられます。

[1] OECD Economic Outlook, Volume 2025 Issue 1: Japan | OECD

英国の固有性

英国国債市場に関して同様の分析をおこなうと、利回り変動に対する固有要因の影響が他市場以上に大きくなっていることが示されます。レイチェル・リーブス財務大臣が下院で涙を流し、市場が動揺したのはその典型的な例を示すものです。しかし、重要なことは、そして以前にも述べたように、英国の財政見通しが深刻な懸念事項であり、現政権は福祉給付改革を進めることができず、自らの財政規則に違反する危険性があることです。2022年9月の出来事によって、債券市場の参加者は税金や支出を費やしてまで経済成長を促進することを好まないことが示されました。より綿密で信頼性の高い財政・成長計画が必要ですが、まだ明確ではありません。さらに、英国のインフレ率は市場予想を超えています。消費者物価上昇率は、5月の前年比3.4%から6月には3.6%に上昇しました。前回の予算がインフレに影響を与える前の今年3月のインフレ率は、2.6%でした。2026年にこれらの予算関連項目が解消されればインフレ率は急激に低下するという議論もありますが、今年後半の税制改革についてはまだ不透明であり、インフレ期待が高止まりするリスクがあるとみています。英国のインフレ率を低下させるには、経済の大幅な減速が必要になる可能性があり、これは財政見通しにとって好ましくないと考えます。


英国債(ギルト)のリスクは高まっているが、プラスのリターン

そのため、ギルトの利回りは他の市場の国債利回りよりも変動が激しい状況が続く可能性が高いとみています。主要国債市場の中で、過去5年間の10年国債利回りの日々の変動幅は、ギルトとイタリア国債で最も大きく、JGBは市場の不安にもかかわらず、最も小さい変動幅でした。結論として、ギルトの利回り水準を考慮すると、デュレーション(金利の動きに対する債券価格の感応度)に対する強気の見方は、ギルトのポジションを通じて実行できる可能性があります。興味深いことに、ギルト市場の一部は今年年初来、欧州国債市場を上回るリターンを生み出しました。償還まで7年から10年の国債について、ギルト市場が3.6%、欧州国債市場が1.4%のトータルリターンとなっています[2]

[2] ICEデータサービス、2025年7月17日現在

分かっていないこと

さらに、米国債に関する具体的な懸念もあります。7月半ば、ドナルド・トランプ大統領が米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長を解任しようとしているとの噂が市場に流れました。トランプ大統領がFRBに利下げを求めていることは市場ではよく知られています。市場に悪影響があるシナリオは、パウエル議長がトランプ大統領に従属する人物に交代し、通常の政策金利設定手順(連邦公開市場委員会(FOMC)の分析と投票)がすべて覆されるというものです。このようなシナリオでは、イールドカーブ(利回り曲線)のスティープ化(急勾配化)によって債券利回りが上昇し、ドル安が進むとみています。また、インフレ加速の可能性があるため、ブレークイーブン・インフレ率(BEI、市場が予想する期待インフレ率)もさらに上昇するでしょう。金融政策をめぐる不確実性を考えると、米国債のリスクプレミアムを高める必要があり、これは他の地域の利回りや為替レートにも影響を与えるとみています。トランプ大統領でさえFRB議長を解任するとは考えにくいですが、もしそうなった場合、リスク資産にはマイナスの影響を及ぼすことになるでしょう。関税と利下げによってインフレ率が上昇し、実質金利がゼロまたはマイナスに引き下げられることを考えると、これまで以上にインフレ対策が必要になるとみています。米国市場ではBEIが引き続き上昇しています。

債券市場参加者

世界の債券市場は決して退屈な状況ではありません。利回りがあり、ボラティリティ(変動)があり、重要なマクロ要因の影響があり、市場間で乖離も存在します。現地通貨ベースで見ると、ドイツと日本の国債市場の2025年のトータルリターンはマイナスです。一方、米国と英国の国債市場はプラスであり、利回りの高い市場においてキャリー(市場の状態に変化がない一定期間に得られるインカム・ゲイン)の力が現れています。日本の投資家にとって、自国市場で投資を続けることは合理的とみています。これは、為替ヘッジのコストにより、円にヘッジされた米国債市場や欧州の国債市場の利回りが、JGB市場の利回りよりも低いためです。日銀の翌日物金利は0.5%と低水準にとどまっており、このため、日本の投資家が米ドル建ての保有資産の為替をヘッジするためには、年率400bp近くのコストがかかることを意味します。対照的に、欧米の投資家は、JGBに投資し為替をヘッジしたポジションを保有することで、追加の利回りを得ることができます。もちろん、日本の国債利回りが上昇することを懸念してヘッジしない投資家もいるでしょう。しかし、JGBの利回りが上昇するとすれば、その動きの大部分は世界的な国債利回りの上昇によって引き起こされる可能性が高いとみています。

リスクと投資機会

インフレに対する懸念は根強く、特に米国と英国では顕著です。財政見通しに対する懸念は世界的に高まっています。しかし同時に、欧州のインフレ率は欧州中央銀行(ECB)の目標水準に戻り、ユーロ高がインフレ抑制に寄与しています。中国ではインフレがない状態であり、また、関税で保護されている米国での市場シェア低下を補おうとしてアジア諸国や欧州への輸出を拡大しているため、再びデフレを輸出しています。こうしたインフレ動向の差異は、世界の債券市場におけるリターン機会の差異として現れるでしょう。

市場には、債券、特に長期デュレーションの債券に対する需要の構造変化に対して懸念があります。しかし、各国政府は長期債の発行を減らすことで対応しており、いずれ長期債が相対的に希少価値を提供し始める可能性があります。現在、インカム機会が豊富にあり、利回りも投資に良好な水準にあるため、債券需要は強まっています。トランプ大統領がFRBの方針に反して法定通貨システムを暗号通貨に従属させることで世界的な金融安定を覆すことを控える限り、長期投資家にとって、利回りの急上昇時にデュレーションが長めの債券市場に投資することは依然として興味深い選択肢です。債券市場は相対的にも歴史的も投資機会が豊富な状況にあるとみています。

パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ICEデータサービス、ブルームバーグ、アクサIMグループ。特に記載がない限り、2025年7月17日現在。

過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。また、記載内容は、2025年7月17日現在の債券市場を説明したものであり、特定の金融商品への勧誘や推奨を意図したものではありません。

(オリジナル記事は7月18日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

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