ウクライナ危機と保険会社への影響
キーポイント
- ウクライナ危機は金融およびマクロ経済に著しい影響を及ぼし、保険会社にすでに重くのしかかっている責務を増幅しています。
- インフレ圧力が収益性の妨げとなり、バランスシートに混乱を起こしています。インフレリスクは資産・負債総合管理(ALM)および投資戦略に組み込まれるべきです。デュレーションギャップに細心の注意が必要です。
- 戦争に関連する保険損失は、保険会社にとって管理可能であるべきですが、全般的な不確実性、変動性、下振れリスクは資産ポートフォリオにより多くの保険と迅速性を要求するものす。
- 戦争が気候変動対策計画に支障をきたしても、それが物理的および移行リスクを軽減するわけではありません。このため債務および資産の双方で、気候リスクの統合の加速が必要になります。ウクライナ危機が現行の規制プロセスを減速させる模様はなく、保険会社はこれらのリスクを管理する体制を整えなければなりません。
ウクライナ戦争が保険会社の重責を増幅
保険会社は2022年初旬、対処すべき様々な問題を抱えていました。とりわけ経済・金融制度で予想されていた変更および、幾つかの重要な規制の整備が進行中でした。
消費需要の著しい回復に加えて、新型コロナウイルス関連で長期化する供給サイドの混乱が、すでに供給の行き詰まりを引き起こし、インフレ率は数十年来のレベルに達していました。その時点では当社の中心的なシナリオは、パンデミック・ショックが徐々に吸収され、世界のサプライチェーンが正常に戻ることで、持続的成長とインフレの減速が実現し、金融政策は消化できるペースで正常化するといったものでした。
とは言うもののインフレ、金利、さらなる変動性に関する不確実性により、保険会社のバランスシートと資産ポートフォリオにはすでに、さらなる慎重さとレジリエンス(回復力)が求められていました1 。
ウクライナ危機は投資家を震撼させ、世界経済および金融市場、とりわけ欧州に大きな影響を与え続けています。変動性が高まり、株式市場は下落し、クレジットスプレッドは、特にロシアに直接または間接のエクスポージャーがある企業で拡大しました。欧州は石油および天然ガスを大きくロシアに頼っており、そのことが上昇するインフレをさらに加速させています。図表1は、高まるインフレ圧力がインフレ期待をさらに押し上げていることを示しています。
- Tm8gaW1tZWRpYXRlIHN0b3JtIGFoZWFkIGJ1dCBpbnN1cmVycyBzaG91bGQgdXNlIHRoZSBsdWxsIHRvIGJ1aWxkIHBvcnRmb2xpbyByZXNpbGllbmNlIOKAkyBBWEEgSU0g4oCTIEphbnVhcnkgMjAyMg==
戦争勃発時の質への逃避は一時的で、市場参加者は中央銀行のタカ派態勢に安心し、早々にさらなる大幅な利上げ予想を価格に織り込み、これが債券ポートフォリオに著しい影響を与えました。高インフレは実質所得に打撃を与え、消費者心理を低迷させ、金融引き締め政策の規模および成長への影響に関して引き続き懸念を呼び起こしています。
労働市場は好調で、企業への融資条件は引き続きまずまずであり、収益成長も続いていますが、不確実性が上昇しています。サプライチェーンの混乱、特に新型コロナウイルスの再流行への対応策として中国で導入された新たな制約による混乱および地政学が、GDP 成長率に影響するとみられます。また、インフレ動向や金融引き締めのペースについても不確実性が高いため、金融市場における乱高下をより頻繁に引き起こすことになると思われます。
成長が停滞する一方で物価が上昇する「スタグフレーション」が話題になっており、市場崩壊も信用収縮も今のところ見られないながらも、ALMの強化および保険ポートフォリオのレジリエンス構築を求める声は、3カ月前よりさらに高まっています。
ご留意事項