米国の依然強い労働市場 : FRBのインフレ抑制姿勢が浮き彫りに
キーポイント
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マーケットは強い米雇用統計に納得していない。現時点では、統計データ作成上で雇用創出が誇張されている理由は理解できる。それでも、市場が求めているFRBのハト派への方向転換を実現するには雇用創出ペースが強すぎるだろう。
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当社は、ユーロ圏のインフレ率低下について慎重に見ている。
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中央銀行のインフレ目標の上方修正(2%から3%へ)に関する オリヴィエ・ブランシャール(元IMFチーフエコノミストで現在マサチューセッツ工科大学教授)氏のフィナンシャル・タイムズへの寄稿に言及する。
市場は、先週金曜に発表された11 月の強い米雇用統計に関して、その詳細にあいまいな点が多すぎることを認識していると思われます。雇用統計のベースとなる調査が雇用創出を過大評価している理由は理解でき、これは雇用面において、企業の消滅(倒産)および誕生に関する調整が原因とみられます。それでも、急速なディスインフレをもたらすためには、実際の(新規雇用の減少)ペースが遅すぎると言えるかもしれません。
「離職率」が依然として長期平均を約2標準偏差上回っているという事実は、労働市場のタイト化が長引いていることを示しており、賃金の再加速を示すデータは「統計的に脆弱な」ものであっても、パウエルFRB議長の最近の発言を正当化する上ではちょうど良いタイミングとなりました。パウエル議長の慎重なスタンス( 利上げを減速させるものの、引き締め効果が明確になるまで抑制的姿勢を維持するという決意 )は、おそらく現在の不安定な環境では必要とされるものであり、そして2%のインフレ目標達成からは依然として大きく乖離しています。市場は引き続き 2023 年後半の利下げを織り込んでいますが(当社は 2024 年の利下げを予想)、これは現在のターミナルレート(利上げの最終到達点)のプライシング(5%を下回る水準)と一致してしないと当社は考えています(当社の基本シナリオは5%で、上方リスクあり)。確かに、利下げは政策のオーバーシュートへの対応として容易に想像できますが、現在のデータの強靭性を考えると、5%未満の最終金利は必ずしも「過度に抑制的」とは言えません。
ユーロ圏の11月のインフレ率はついに市場予想を下回りましたが、現時点では詳細データが不足しているため、これが「ノイズ(雑音)」ではなく「シグナル(意味あるデータ)」であるかどうかを確認することは困難です。それでも、インフレ率データが脆弱であるとしても、これによりECB は 12 月に(75bpsから)50bps「のみ」の利上げに引き締めのペースを変える可能性があります。
最後に、中央銀行のインフレ目標の上方修正を主張する オリヴィエ・ブランシャール氏の寄稿について説明します。同氏は、以前は4%への上方修正を主張していましたが、今回は3%に引き下げており、高インフレ下で注目度が増しています。なお、インフレ目標の上方修正は、中央集権的なECBのユーロ圏よりも、FOMCで各委員が金利予想を動かすことができる米国で有効かもしれません。
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